上 下
220 / 258
連載

第367話 破壊工作する勇者

しおりを挟む
男達に案内された場所は、建物と建物の間にボロ布を張って雨だけを防ぐ簡易式のテントだった。ヒビが入った木製のテーブルはあるものの、椅子が無いのか何かの木箱で代用していた。リーダー格の男はその内の一つに座り、早速本題を切り出して来た。

「それで、俺達に頼みたい仕事ってのは何だ?」
「情報収集を頼みたい。この街にある重要拠点…例えば軍の集積所の詳しい場所だとか、軍の構成だとか。不正に弱かったり金に汚かったりする役人の名前だとかだ。出来るか?」

俺の申し出に男はしばらく考え込む。スラムのゴロツキ程度にわかる内容ではないと思うが、蛇の道は蛇とも言うし、何処で誰が繋がっているかわかった物じゃない。試してみる価値は十分ある。

「絶対とは言い切れねえが、仲間に頼めばある程度の事はわかると思う。しかし…なんだってそんな事を知りたいんだ?」

当たり前だが男達が不審な目を向けてくる。そりゃこんな事を聞きたい奴なんか、これからテロをやりますって言ってるようなものだからな。警戒したくなるだろう。

「…あんた達…ひょっとして魔王様に反逆でもするつもりか?」

男が発した言葉に取り巻き達が緊張する。ここで否定するのは簡単だが、俺はここが勝負所だと直感した。一応敬称はつけているものの、なぜか男達は魔王を支持していないように思えたのだ。失敗するとこの連中で情報収集をする案がパアになるが、上手くいけば情報収集よりも便利に使える手駒が手に入るかも知れない。

「…今の魔王は一部の者を厚遇し、ここに居る様な人々の存在を無かった事にしている。俺はその現状を変えねばならないと考えているんだ」

俺の言葉に男達は咄嗟に周囲を警戒した。魔族領で魔王批判をすると言う事の意味は部外者である俺にも簡単に想像がつく。独裁軍事国家の指導者が自身に批判的な人種を生かしておく訳がないのだ。それだけに、今の俺の言葉に男達が焦りを浮かべたのは当然だったろう。

「本気かよ…?だが、ハッタリでそんな事を言うには度胸があり過ぎるな。確認しておくが、あんた達は最近貧民街の人間に協力を求めている奴等の仲間じゃないんだよな?」
「…どう言う事だ?」
「知らないのか?最近どっかの魔族が私兵を集めているってんで、貧民街の住民に声をかけて回ってる奴が居るんだよ。何の目的でそんな事してるのかわからなかったから、てっきりあんた達がそいつの仲間だと思ったんだけどな…」

私兵を集める魔族?一体何の目的でそんな事をしてるんだろうか。南に侵攻する為なら魔物頼りだろうし、あえて私財を投入してまで私兵を集める必要があるとも思えない。ひょっとして…そっちが反逆の本命じゃないのか?これは調べる必要があるな。

「いや、俺達は違うな。ついでにそいつらの事も調べておいてもらえるか?目的がわかれば報酬を弾む。どれぐらいで調べられそうだ?」
「そうだな…三、四日もあればある程度の事はわかると思うが」
「ならその時にまた来る。今度は金と食料を持って来よう」

話は終わりだとばかりに席を立つ俺達に、男は慌てたように立ち上がった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。まだあんたの名前も聞いてないんだ。それぐらい聞かせてくれてもいいだろう?」

なるほど。そう言えば一度も名乗った覚えがない…エストって名前をそのまま名乗る訳にもいかないだろうし…適当に名乗るとするか。

「ズーマー、俺の名はズーマーだ」
「俺はホベロだ。ところで、どうやって食料を持ってくる気なんだ?」
「俺は転移が使えるからな。四日後、ここに直接現れる。じゃあ頼んだぞ」

そう言い残し、俺達は転移でグラン・ソラス城まで戻ってきた。指輪の変身を解き、全員でホッと息を吐く。トラブルが起きても力ずくで切り抜けられるとは言え、どうしても緊張してしまうからな。それにそろそろ指輪の効果時間が切れそうだったのでちょうどよかった。ホッとしたのも束の間、交渉中に我慢していたディアベルが早速質問してきた。

「主殿、あの連中を使って何を企んでいるんだ?」
「情報収集は最低限やってもらいたいな。軍事拠点がわかれば侵攻が始まった時点で破壊して混乱させるつもりだよ。連中の言ってた私兵を集めてる奴等が魔王に反意を持っているなら、密かに支援して魔族領を混乱させる」

要は前世の欧米のやり方を真似しようと言う訳だ。反乱勢力が魔王に勝つ必要などない。出来る限り戦力を均衡にして、共に潰し合ってくれればこちらとしては万々歳だ。ありえないとは思うが、万が一反乱勢力が勝ってしまった場合のみ注意しなければならない。アルカイダを支援して後に裏切ったアメリカのように、国内でテロをやられるようなしっぺ返しは避けたいからな。支援するなら最後まで。裏切るなら皆殺しが前提だ。

「考えたな主殿。確かにそれならこちら側の被害は少なくなりそうだ」
「まあこれぐらいなら誰でも思いつくと思うけどね」

でもまあ、咄嗟の思い付きにしては良い線いっていると思う。必要になるかどうか今のところハッキリしないものの、中古の武器などを集めていた方が良いかも知れない。武器が無ければ反乱どころじゃないからな。早速ルシノアに相談して、その辺の手配をしておこう。四日などすぐに過ぎるのだから。
しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば
ファンタジー
シキは勇者に選ばれた。それは誰かの望みなのか、ただの伝統なのかは分からない。しかし、シキは勇者に選ばれた。果たしてシキは勇者として何を成すのだろうか。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。