163 / 258
連載
第310話 接触
しおりを挟む「兄様、準備は良い?」
「大丈夫だ!やってくれ!」
俺の返事と共にレヴィアは空中から落下し、そのまま勢いを殺さず海の中に突っ込んだ。巨体が海面に激突した衝撃波凄まじく、溢れた波はまるで津波のように沿岸に押し寄せる。レヴィアの角を握りしめたまま海面に突入する瞬間思わず目を閉じてしまった俺だったが、次に目を開けると海水にも触れずに海の中に居る事に気がついた。周りには様々な魚や海藻などがあり、まるで地上で見るかのようにその姿はハッキリと見える。
「これが…レヴィアの力か!」
「そうよ!私が側に居る限りは空気の膜で守られているから、溺死する事はないわ」
海中だと言うのに…いや、海中だからこそか、レヴィアは空を泳ぐ時より早く海中を突き進んでいる。彼女は本能的に何かを察知しているのか、まるで吸い寄せられるように海底目指して潜って行った。そしてやっと俺のマップスキルに反応が出た頃、レヴィアが鋭い叫びを上げる。
「兄様!母様の気配がするわ!それに、その近くにとても強力な魔物の気配もある!」
「ああ、こっちも確認した。確かに今まで戦ったどの魔物よりも巨大な反応だ。間違いなくこいつが封印されてる魔物だろう」
母親の存在を感じ取った事で急にペースを上げたレヴィア。やがてそんな俺達の目の前に大きな壁の様なものが姿を現した。海の中に壁?と思っていたら、レヴィアが突然壁に向かって呼びかける。
「母様!母様!目を開けて!母様!」
これが…リヴァイアサン?とにかく姿を確認しない事にはどうにもならない。レヴィアに頼んで今俺を包んでいる空気の膜を海中にいくつか作ってもらい、その中に火炎球を放つ。するとやっと俺にも全貌が見えてきた。そこにはまるで壁と見紛うばかりの巨大な海竜が横になっている。この大きさだと今のレヴィアよりも一回り以上は大きいはずで、全長を考えるととんでもない巨体になるだろう。
その巨大な海竜、レヴィアの母親リーベは娘の必死の呼びかけにも答えず、まるで死んでいる様に微動だにしない。一瞬死んでいるのかと錯覚したほどだが、確かに生きていると感じられる。恐らく彼女自身が使ったと言う封印が影響しているのだろう。その時、俺はふとある方法を思いついた。あのアイテムを使えば、この状態のリーベも元に戻るかも知れない。
「兄様!どうしよう…母様が…!」
「レヴィア。これが効果あるか解らないが使ってみよう」
半泣きになっているレヴィアをなだめ、俺は腰の道具袋から一つの宝珠を取り出す。これこそ以前石になりかけたシャリーを一瞬で元に戻した奇跡のアイテム、賢者の石だ。
「そっか!それなら…!」
「祈ろうレヴィア。お前のお母さんを助けるんだ!」
眠り続けるリーベの横で、俺とレヴィアは祈り始める。俺の掲げる賢者の石は俺達の祈りに呼応するように、徐々に光を増して真っ暗な海の中にまるで太陽でも現れたかのような光を放ち始める。
「くっ!」
「母様!目を覚まして!」
強力なスポットライトが目の前にあるかのような光量で、眩しすぎて目を開けていられない。聞こえてくるのは母に呼び掛けるレヴィアの声だけだ。だが次第に光が収まっていくと同時に、目の前の海竜から今までにない命の鼓動が感じられ始めた。そして賢者の石の光が収まり再び海の中に静寂が訪れると、リーベの体に変化が起きている事に気がついた。
「兄様!母様が!」
「ああ!どうやら効果があったみたいだな!」
リーベの体は先ほどとはまるで違い、その巨体を覆っている鱗が以前のレヴィアと同じように美しい輝きを放っている。生気の通ったその鱗は、まるで一枚一枚が宝石のような美しさを保っていた。あまりの美しさに非常時を忘れて一瞬見惚れていると、その美しい鱗に覆われた巨体が少しずつ動き始めた事に気がついた。
「母様!?」
レヴィアの呼び掛けには答えず、リーベは勢いよく動き出したかと思うと一気に海面目がけて上昇を始めた。慌てて後を追うレヴィア。だがリーベは海中だと言うのに恐ろしく速く、レヴィアがあっさりと置いてけぼりになるような速度で海を突き進み、そのまま海面から飛び出してしまった。遅れて海上に出たレヴィアはそのまま空中に上昇し、海面から時折姿を見せるリーベを心配そうに見つめる。巨大な海竜が現れては消えるものだから、時化でもないのに海が荒れ狂っていた。
やがてそれも収まってくると静かに海面が盛り上がり、リーベがその巨大な頭を海面へと持ち上げてきた。リーベは空中に浮いているレヴィアの姿を静かに見つめ、何者か見定めているようだ。
「母様!」
「その声…まさかレヴィア?」
「そうよ母様!私よ!レヴィアよ!」
長い時間封印状態だったリーベにとって、レヴィアの姿は海竜の時の記憶しかないだろう。なのに見た事も無い黄金の龍が宙に浮きながら懐かしい声で自分を母と呼ぶのだ。彼女の混乱はいかばかりだろうか。
「レヴィア…あなたその姿は一体…いけない!すぐに逃げなさい!」
一瞬混乱したもののそこは海の支配者リヴァイアサン。瞬時に危険を察知して警告を発する。リーベが声を上げたのとほぼ同時に海の中から何者かが浮かび上がってくるのが解った。きっとリーベが自由になった事で封印されていた魔物が動き出したんだろう。魔物はさっきのリーベやレヴィアに勝るとも劣らない勢いでこちらに向かって来る。どうやらぐずぐずしてる暇は無さそうだ。
「リーベさん!それにレヴィア!いったん後退してくれ!奴が海面に出たところを捕まえる!」
「貴方は…?」
「母様、話は後!今は兄様に任せて!」
今更ながらリーベはレヴィアの頭の上に人が乗っている事に気がついたようだった。詳しい説明をしてやりたいところだが今はその余裕が無い。近寄ってくる魔物の気配はどんどん大きくなってくる。これは今までにないほどの激戦になりそうだなと思う俺の顔を、一滴の冷や汗が流れ落ちた。
0
お気に入りに追加
3,305
あなたにおすすめの小説
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。