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第272話 防衛戦力の確保
しおりを挟む鎧の性能テストが終わった後、俺は領地で一週間程の休暇を取っていた。ここ最近偉い人達との慣れない交渉事のせいか、随分疲れが溜まっていたようだ。今は少しでも時間が惜しい所なのだが、交渉事が終わらないと安心してダンジョンに籠る事すら出来ない。だが休暇と言っても何もせずにボーっと過ごしていた訳では無く、魔族達の侵攻からどうやって領地を守ろうかと頭を捻っていたのだ。
「エスト様、準備が整いました」
「わかった。じゃあさっそく出かけようか」
旅支度を整えたルシノアが出立の合図を告げてくる。俺とルシノアの二人は、これから各国にある王都を巡る用がある。二人で出かけると言っても色気のある話では無く、奴隷商をいくつか見て新たな奴隷を手に入れるつもりなのだ。
まず必要なのが家の事を任せられるメイド用の奴隷を3人。そして残りの資金で集められるだけ腕に覚えのある奴隷を買う。これは屋敷を守るための戦力として必要な人員だった。
奴隷を買うだけなら俺一人でも出来るのだが、それだと留守にしている間が不安になる。俺を主として契約した奴隷達は俺に逆らうと罰がある。しかし、俺の代官であるルシノアに逆らった所で何の罰も受けない。これでは安心して魔族領に潜入する事など出来ないので、ルシノアを今日集める奴隷達の主にする必要があるのだ。
------
まず訪れたのはガルシア王国の王都だ。ここはディアベルとシャリーの二人が俺と再契約をした街でもある。以前利用したのと同じ契約所を覗いてみると、相変わらずいくつもの大きな檻の中に様々な人種が入れられていて、大半の奴隷が恨めしそうにこちらを見ている。彼等の視線を無視して隣に併設された建物の中に入ると、にこやかな笑みを浮かべた強面の男が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。本日はどのような奴隷をご所望ですか?」
「家事の得意な奴隷と戦闘が出来る奴隷が欲しい。出来ればどちらも女が良い」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言うと丁寧な物腰の受付は外に出て行った。俺は何度か利用しているから慣れているが、初めて契約所に訪れたルシノアはビクビクしながらしきりに周囲を観察している。例え下手に出てきた所で、彼女のように戦闘力の無い人間には、ここは危険地帯でしかないのかも知れない。
「お待たせしました。どうぞこちらに」
案内されて外に出ると、檻の前に並べられた20人ほどの女達が立っているのが見えた。年齢も種族もバラバラで、怯えている者も居れば堂々と腕組みしてこちらを観察する者、警戒感を露わにする者など様々だ。
「まず家事の出来るメイドですが、こちらの四人がおすすめです。こちらの三人は全員商家での雑務を経験しておりますので、家事全般は難なくこなせるでしょう。そしてこちらの女、とある貴族のお屋敷でメイド長をしていた経験があります。歳は随分取っているものの、経験は一番です」
最初に紹介された三人の内、一人が人間で残り二人が獣人だった。三人とも二十歳前後と言った所だろうか?そして最後の一人のメイド長の経験があると言う女だが、彼女は人間で見た目は初老の域に達している。頭にも白いものが目立ち、そこからも随分と苦労して来たのがうかがえた。人数は当初予定していたより多いのだが、全員買い取る事にする。ちょうどリーリエに教師役が欲しかったので彼女ならピッタリだと思えた。
「そして残りの者達が戦闘向きの奴隷です。二人ほど魔法使いが居ます。値は張りますが、お買い得ですよ」
魔法使いが居るのは予想外だった。戦いにおいて、魔法使い一人居ると居ないとでは大きな差が出て来る。彼等、あるいは彼女等の使う魔法の威力は絶大で、ただの一発の魔法が戦局を大きく変える場合もあるのだ。例えば10人の弓兵が放つ弓矢より、一発の爆発魔法の方が多くの被害を与える場合もある。それだけに魔法の使い手は貴重で、奴隷として売り出されていてもすぐに買い手が現れるのが常だった。
「こちらの者達もなかなか腕が立ちます。傭兵の経験者や元兵士など経歴は様々ですが、中でもこの女はゴールドランクの冒険者まで上り詰めた強者です。博打に目が無く借金漬けになり奴隷に身をやつしましたが、腕は確かですよ」
説明されたゴールドランクの女を観察してみる。女性にしてはかなり大柄な体格で、身長は180近くあるんじゃないだろうか?体も無駄な肉が一切なく、奴隷だと言うのに見事な肉体美を披露していた。レベルは40ちょうどと平均的な冒険者よりも随分と上だ。他の奴隷達も全員レベル20は超えていて、シルバーランクの冒険者に匹敵する実力者に見えた。
「いかがでしょうか?お客様のご要望にお応えできる奴隷達だと思いますが?」
「…少し、相談させてください」
俺はルシノアの腕を引っ張ると建物の影に連れ込んだ。
「ルシノア、予算はどんな感じだ?」
「現在までの領地経営で得た利益にエスト様が持ち帰った金品を合わせますと、さっきの奴隷達をすべて買い取っても問題ありません。ですがシンシアやマリアの様に彼女達にも給金を支払うおつもりなら、奴隷集めはこの辺で止めておいた方が良いかと。また数か月後に資金が溜まってから、改めて追加の奴隷を確保した方がよろしいでしょう」
ふむ、なら決まりだな。今日の奴隷商巡りはこれで終わりにして、あの奴隷達で手を打とう。俺とルシノアはさっきの場所まで戻り、奴隷商に全員買うと告げた。
「ありがとうございます。では早速ですが、契約の儀式を執り行いましょう。奴隷達の主人になるのは旦那様でよろしいですか?」
「いや、俺では無く彼女だ。ルシノア、行っておいで」
「かしこまりました」
奴隷商に案内されたルシノアが奴隷達と共に建物の中に姿を消す。俺も同席したかったのだが、奴隷紋を刻む儀式は上半身裸になるのが解っているので遠慮しておいた。彼女達も見ず知らずの男に肌を晒すのは本意ではあるまい。契約の儀式は人数が人数なだけにかなりの時間がかかるだろう。さてどうやって時間を潰そうかと考えていたら、一人の奴隷商が側に近寄ってきた。
「失礼ですが、お客様は勇者エスト様ではございませんか?」
「…えぇ、まあ。そうだけど」
「やはり!失礼ですがレベルを確認させていただきました。それだけの高レベルに大量の奴隷を個人で買い取る資金力。流石勇者様です」
警戒感が頭をもたげる。俺はいきなり手放しで相手を褒めあげる奴など、基本的に信用しない事にしているのだ。
「あの、用件は?」
「これは失礼しました。実はですね…」
奴隷商の要件とは、簡単に言うと奴隷の優先的な売買契約だった。このガルシア王国にある奴隷商は各国に伝手があるらしく、客が希望する条件に合った奴隷を引き取ってくる事も出来るらしい。要はその分割高になる手数料を支払うなら、お望みの奴隷を連れて来ますよと言う商談だったのだ。
「上乗せする手数料とはどれぐらいで?」
「はい。手間暇がかかっておりますので三割と言いたいところですが、エスト様とは今後とも良い関係を築かせていただきたいので二割でいかがでしょうか?」
二割か…一人二人なら大した事の無い金額だろうが、大人数だと結構な大金になるんだろうな…。しかしこの先魔族達の襲撃を考えると、領地を防衛する戦力は一人でも多く確保しておきたい。
「…解った。ではそれで手を打とう。希望するのは今日と同じく戦闘向きの奴隷で女性である事。なるべく高レベルの者を頼む」
「ありがとうございます。ではある程度の人数が確保できましたら、エスト様の領地まで使いの者をやらせますので」
深々と頭を下げる奴隷商の後ろから、さっき中に入って行ったルシノア達がぞろぞろと外に出て来た。どうやら終わったようだ。
「エスト様。契約の儀式、全て終わりました」
「うん。それじゃ領地に戻ろうか」
俺は新しく仲間になった奴隷達を一か所に集めると、戸惑う彼女達と共に領地へと帰還するのだった。
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