上 下
46 / 58

第45話:呪われしガラスの靴

しおりを挟む
 漆黒のシンデレラは理解不能な音を発している。
 泣き声なのか、それとも笑い声なのか、けたたましい音がヴェールの下から漏れ出ている。

 ショウはその音を嘲笑なのだと受け取り電光石火の速度で斬りかかるが、再びシンデレラのガラスの靴によって阻まれてしまい、そこから打ち合いへと持ち込まれてしまった。

 既にショウは【万能戦闘技能】によって5つ以上のスキルを併用しており、例えシンデレラが格闘関連のスキルを極めていても押しきれるステータスであった。

 だというのにシンデレラがショウと互角に戦えているのには秘密があった、それがガラスの靴である。
 かつて異世界転生者が己の伴侶の為に磨き上げた魔法の靴。

 その力は、端的にいってしまえば理想の自分を実現できるというものであった。
 つまり絶対無敵の自分を願えば、その通り誰にも負けない自分へと変身できるチートのようなものであった。

 これを最初に履いた姫は数々の脅威をガラスの靴で追い返し、靴異世界転生者と共に幸せに暮らしたとされている。
 これが御伽噺であればそこでめでたし、めでたしで終わるのだがそうはならない。

 理想だけを叶え続け、理想だけを見続けた彼女だが――――理想に殉ずることだけはできなかった
 理想の自分を実現した姫は老いなかったからだ。

 やがて夫は死に、近しき者も亡くなり、自身が産んだ子が他界しても、シンデレラだけは理想のまま変わらなかった。
 理想を体現したシンデレラはツァーカムの理想として多くの民衆に慕われたが、それが問題でもあった。

 民衆がシンデレラに嘆願すれば、心優しきシンデレラはその願いと理想を叶える為に動く。
 そしてシンデレラが命じれば大臣達は逆らえず、それに頷くことしかできない。
 つまり国の理想であるシンデレラこそが、国を破錠させるガン細胞でもあったのだ。

 大勢の民の理想を聞き届けようとするせいで国は滅びの一途を辿っており、それをなんとかしようと大臣達はシンデレラにガラスの靴を脱ぐよう頼んだ。
 しかしそれを脱ぐということは理想を捨てるということ。
 シンデレラに頷くことなどできなかった。

 故に大臣達は蜂起という実力行使を以ってガラスの靴を脱がせようとするが、理想を叶えられたシンデレラに勝てるはずもなく、散り散りに逃げてしまった。
 こうしてシンデレラはツァーカムに君臨する女王と成ったのだ。

 最初の数年は誰もがシンデレラを称え、称賛した。
 数十年も経つと様々な問題が起こり、徐々に国は衰退していった。

 もちろんシンデレラは理想の国であるようにと懸命に努力した。
 けれども、どうにもならなかった。
 ガラスの靴は灰かぶりを魔法の力で姫にすることはできても、理想の世界を創ることなどできないからだ。

 やがて民衆はシンデレラを諸悪の根源とし、彼女を非難した。
 そしてシンデレラは初めて理想ではなく現実というものを直視した。

 醜く喚きたてる民衆、罵詈雑言ばかり投げつける人々。
 愛する者は既に側にはなく、愛してくれる者も今はもういない。

 理想という煉獄に焼かれたシンデレラの目には、もはやソレらは醜悪なモノにしか見えず、理想を穢す汚物としか捉えられなかった。

 こうしてツァーカムにいた民は皆殺しにされ、残ったものは理想に狂い怪物へと変貌したシンデレラだけとなってしまったのであった。

 一国の民をただガラスの靴のみで屠殺したシンデレラ。
 ショウも実際にやろうと思えばやれるが、やっていない。
 その差が勝負を分けてしまった。

 虐殺を行ったシンデレラには多くの時間と経験があった。
 どう殺すか、どう動けるか、どうされたら嫌か、あらゆることを試した経験値があった。

 ショウが打ち合いを制し、シンデレラを民家の壁へと吹き飛ばす。
 もちろんシンデレラは無傷だが、ひとつだけ異質なガラスの靴にこそ、その秘密があると睨んでいた。

 だが民家の瓦礫によってガラスの靴が見えなかった。
 ショウは戦闘におけるスキルをほぼ全て使用できたが、【透視】などといったチートは持っていなかった。

 シンデレラが影に足を沈めた瞬間、ショウの背後にある影からその足が飛び出してきた。
 咄嗟に反応して剣で受け止めることができたものの、衝撃までは殺しきれずにシンデレラの方へと吹っ飛ぶ。

 むしろ間合いを近づける好機だと考えたが、シンデレラの初見殺しまでは見抜けなかった。

 吹き飛ばされてきたショウに対して、シンデレラがカウンターの蹴りを放つがあまりにもタイミングが速すぎる。
 それもそうだろう、その蹴りはショウではなく空間そのものを蹴り破る為のものだからだ。

 突如開いた空間の亀裂に、空中で身動きのとれないショウは回避することができず、そのまま飲み込まれてしまった。

 廃墟に残ったものは彼に従う者達と、逃げ惑う人々と、再び醜悪なものを一掃しようと猛り叫ぶシンデレラだけであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性剣セクシーソード

cure456
ファンタジー
 人生に疲れ、自ら命をたった主人公。名はケンセイ、十八歳。気がつくとそこは『ガジガラ』と呼ばれる魔界だった。  謎の女性と出会い、女性のフェロモンを力に変える呪われた装備。セクシーソードと鎧をもらう。  今までとは何もかもが違う異世界で、様々な女性と触れ合いながら進む、その道の向こうに待っているモノとは……?    2017/08/22 第三章始めました。  感想などお気軽にお寄せ下さい。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

えっ、一ヶ月以内にエッチしないと死ぬ異世界転生!?

gulu
ファンタジー
モテない男が異世界転生! だけどなんか普通の異世界転生と違くない!? 神様が肉塊と触手が合体した見た目だし、転生させられる理由がめっちゃ不純だし、しかも一ヶ月以内にエッチしないと死ぬ縛りまで追加されて、これでいいのか異世界転生!? いいんだよ! これが異世界転生だ!! 目指せハーレム、目指せ純愛! 百万回異世界転生してでも絶対に成し遂げてみせる!!

闇ノ神の力を受けた勇者は、迫害されてもなお愛されたい。

山椒
ファンタジー
異世界と呼ばれるその世界では、創造主が森羅万象を十二に分かち、それぞれの役割を持った十二ノ神が存在していた。その神々はそれぞれが好む種族の一人に、勇者や魔王と呼ばれる形で力を与えていた。 勇者は魔王を討ち、魔王は人間を滅ぼす。それが決められたことであった。 しかし、本来魔族に力を与えるはずの闇ノ神が人間の男の子に力を与えてしまう。 人間は彼を忌み嫌い、魔族も人間である彼を嫌う。そして、彼は愛せない。 これは、そんな彼が大事なものを得るための物語。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

裏庭にダンジョン出来たら借金一億❗❓病気の妹を治すためダンジョンに潜る事にしたパッシブスキル【禍転じて福と為す】のせいでハードモードなんだが

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
もはや現代のゴールドラッシュ、世界中に現れたダンジョンから持ち帰られた品により、これまでの常識は一変した。 ダンジョンから与えられる新たな能力『ステータス』により人類は新たな可能性がうまれる。 そのため優遇されたステータスを持つ一部の探索者は 羨望の眼差しを受ける事となる…… そんな世界でどこにでも良そうな男子高校生、加藤光太郎は祖父の悲鳴で目が覚めた。確認すると裏庭にダンジョンが出現していた。 光太郎は、ダンジョンに入る事を猛反対されるが、病気の妹を癒す薬を取りにいくため、探索者となる事を決意する。 しかし、光太郎が手にしたスキルは、常時発動型のデメリット付きのスキル【禍転じて福と為す】だった。 効果は、全てのモンスターが強化され、障碍と呼ばれるボスモンスターが出現する代わりに、ドロップアイテムや経験値が向上し、『ステータス』の上限を突破させ、追加『ステータス』幸運を表示するというものだった。 「ソロ冒険者確定かよ❗❓」 果たして光太郎は、一人だけヘルモードなダンジョンを生き抜いて妹の病を癒す薬を手に入れられるのか!?  ※パーティーメンバーやダンジョン内に同行する女の子が登場するのは第一章中盤37話からの本格登場です。

処理中です...