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第11話:スラム街横断旅行

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「いいかお前ら、荒くれ者なら身なりのいい奴を見かけたら襲ってくるのがお約束だろう。 なのに誰も近寄ってこない、何故だ?」
「そりゃあ隣にそんなゴツイ護衛がいたら怖がって誰も寄ってこないでしょう」

 そう言って酔っ払いがタイロックを指差す。
 まぁこいつは下手な大人よりもデカくてムキムキで厳ついからな、気持ちは分かる。

「テメェ、それはつまり俺よりこいつの方が強いって言いたいのか!」
「えぇ、それが当たり前じゃねぇんですか!?」

 だがそれはそれとして、ムカつくので酔っ払いに八つ当たりすると、タイロックが優しく肩を叩いてきた。

「王子、筋肉、ない、あるのは、チート、だから、そう見られる、仕方ない」
「うるせぇ奴隷風情が、ぶっ飛ばすぞ!」

 この野郎、ちょっと強くなったくらいで調子に乗りやがって。
 今度訓練で思いっきりしばいてやる。

「王子様、そもそもここにゃ盗賊ギルドやら暗殺社ギルドもあるって噂ですぜ。 危ないことしないで、さっさと帰った方が身のためですぜ」
「盗賊ギルドと暗殺者ギルドだと!?」
「王子ぃ、顔が笑ってますよぅ」

 おっと、イカンイカン。
 お約束が出てきたせいでちょっとテンションが上がってしまった。
 とはいえ、それを聞いた以上ここで帰るわけにはいかん。

 俺は酔っ払い共に金貨を一枚放り投げて尋ねる。

「その盗賊ギルドと暗殺者ギルドの場所、教えてもらおうか」

 そうして酔っ払い共から聞いた話から割り出した隠れ家に辿り着いた俺は、腐った気の扉を破壊し、弁償費用として金貨1枚を投げてから中に押し入った。

「おう邪魔するぜぇ!」
「うぉっ! なんだお前!?」

 中には予想通り育ちも性根もよくなさそうな奴らがいる。

「印籠はねえが、この鉄兜に見覚えはねぇってのかアァン?」
「ま、まさか……ショウ王子か!?」

 よしよし、こいつらはちゃんと俺が誰なのか分かってんな。

「いや待て、王子がこんなところにくるか?」
「なら偽物……?」

 なんだよ、こいつらお約束ってのをちゃんと分かってんじゃねぇか。
 それじゃあご老公プレイといくか。

「そうそう、俺ぁ偽物だよ。 だから遠慮なくかかってこい」
「ちょ、ちょっと待ってぇ、王子ぃ!」

 さぁ喧嘩の始まりだ、というところでキリエが袖を引っ張って邪魔をする。

「なんだよ邪魔すんじゃねぇよ、ってか王子じゃなくて偽王子って言え」
「いえ、ここの人達が暗殺者ギルドなら問題ないですけどぉ、盗賊ギルドだったら、殺しちゃうのはダメですよぉ」
「……それもそうだな」

 犯罪者なら何をしてもいいという法律はない。
 盗みを働いたのであれば、相応の刑罰を与えるべきであり、殺してもいいという免罪符はつかない。

 少なくとも、親父殿の息子である俺が無法な態度をとるわけにはいかないだろう。

「おいそこの王子っぽい奴、誰に喧嘩売ってんのか分かってんのか?」

 どうやらこちらがヒソヒソと話しているせいで、ビビっていると思われたようだ。

「おぉ、後学の為に教えてくれよ」
「なめやがって! 三つ手の盗賊ギルドの恐ろしさを教えてやろうじゃねぇか!」

 そう言って荒くれ者達が斧や剣を構えるが、こちらにとっては好都合だ。

「盗賊ギルドか。 武器を抜いたんなら現行犯だ、やっちまうぞテメェら!」

 呪文や武器を使えば殺してしまう可能性がある為、素手で盗賊ギルドを制圧していく。
 何か凄い力のあるアーティファクトや切り札があるかもと思っていたのだが、そんなものは一切なく、10秒も経たずに制圧が完了してしまった。

「このクソ盗賊共、こんなに弱くてよく盗賊名乗ってられるな!」
「王子、盗賊、盗む、仕事、戦う、強かったら、強盗」
「それもそうだな、盗賊に期待するのが間違いだったわけだ」

 床に転がる盗賊共をキリエが縛っていくが、意識を取り戻した一人が大声をあげる。

「へっ、まさかこれで終わりだと思ったのか? 逆だ、始まりだよ! 俺らには同盟を組んだギルドがいる! そいつらがお前らを狙うだろうよ、ゲェーッヘッヘッ!」
「なんだとッ!?」
「今更ビビッたところでもう遅―――」
「そいつぁ最高じゃねぇか!」

 つまり、こいつはこう言ってるわけだ。
 こっちから出向かずとも、待ってるだけでブチのめしていい奴らが勝手にやってくると!

 素晴らしい、なんて親切な奴らだ。
 盗賊じゃなけりゃ褒美に金貨をくれてやるところだ

 ……だが、いつ来るのか分からないのはちょいと困るな。
 いつか来るとはいっても、流石に半年後とかだと暇で仕方が無い。

「オイ! その同盟を組んだってギルドの場所を言え、こっちから殴り込みにいってやる!」
「―――は?」

 俺は縛り上げた盗賊共をキリエに任せ、意識のある盗賊を引き摺りながらタイロックを連れてそいつらの隠れ家まで行くことにした。
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