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第4話:愛に堕ちる
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そうして数日後、クソ親父は本当にマルクト王朝のお嬢様を連れてきやがった。
「初めましてショウ王子、メレク・シェキナと申します」
「……ショウ15世だ」
恭しくお辞儀をするメレクと名乗る少女とは対象的に、こちらはぶっきらぼうに挨拶すると、おろおろし始めてしまった。
「えっと、あの、ショウ15世、ですか?」
「ハッハッハッ、息子の冗談だよ。笑ってくれていいんだよ」
「そ、そうでしたか。 驚いてしまいました」
ショウ15世というのは親父殿、つまり14世が死んでから名乗る名前だ。
あれだな、日本だったら昭和の時代に昭和天皇って言うくらいアウトなやつだ。
まぁうちのクソ親父は気にしないどころか笑って済ませちまったけどな。
「それじゃあ、あとは若いもの同士ということで」
「あんた何しに来たんだよ」
そう言ってクソ親父と侍女達がささっとテラス席から退場していこうとしたので呼び止める。
「いや待てよ、マジで全員下がらせてどうすんだよ」
「やっぱり周囲に人がいたら話しにくいこととかあるだろう? それに剣聖級の強さを持ち、魔力もSSランクのお前ならお茶のお代わりくらい淹れられるだろ」
「剣技も魔力も茶と関係ねえだろ」
まぁシール先生が淹れてたのを何度も見てたから覚えてるけどよ、それでも一国の王子に淹れさせるのは違ぇんじゃねぇかな。
そんなこちらの思惑など知らないフリをして、クソ親父は小指を立ててそのまま去っていた。
中指とか親指なら分かるが小指は何なんだよ、また変な文化汚染が発生zしてんじゃねぇか?
取り敢えずお相手さんが所在無さげにしているのでイスに座り、座って良いことを示す。
お互いに着席し、紅茶を一口飲む。
そして訪れる沈黙……。
あれか、これ男が会話をリードしろってやつか。
異世界だろうが男は女を引っ張らなければならないらしい。
「あー……そういえばマルクト王朝は今マルクト47世だったか。ウチと違って伝統があっていいな」
「え、あ、あの、その……きょ、恐縮です……」
あれ、なんか相手が萎縮してしまったぞ。
……あぁ、今のはそっちと違ってうちは新人王族だけど文句あんのかって意味にも取れるのか。
別にそんなつもりはないのだが、話題選びがマジで面倒くせぇな。
「し、しかし、ティファレト国のお話もマルクトに負けず劣らず素晴らしいものかと。確か初代ショウ王様が微笑み、そしてその御手をかざされただけで荒ぶる者達を鎮め、国を治めたと言われておりますし」
「ただのニコポとナデポのチートだけどな」
基本、今残っている国の建国者は全員がチート持ちの異世界転生者である。
あと全員が好き勝手に国名をつけたせいで、連邦やら帝国やら皇国やら色々と混じってる。
お前らもうちょい統一させろや。
「しかし、チートも使い方次第です。ショウ王子もいつかその力を使い、この国を幸せに導くことでしょう」
「ニコポとナデポで幸福になる国とか嫌だろ」
大体何をどう使って国を富ませればいいんだよ。
国民全員に使ってブラック労働させるくらいしか使い道が思いつかねぇよ。
そもそも、このチートは一度も使ったことがない。
異性にしか効果が無いせいで奴隷に試し使いすることもできず、どれだけ凄いチートなのかもよく分かっていない。
だから、ふと言ってしまった。
「なぁ、お前に使ってみていいか?」
もちろんそんなことを言われた側はギョっと驚いた顔をしてしまった。
まぁ無理やり惚れさせるチートを使っていいかと聞いてOKする奴なんているはずもないか。
「いや、失言だった。忘れて―――」
「……わたくしで良ければ、是非」
だというのに、目の前のお嬢様はチートの実験台になってもいいと言い出した。
「物を欲するならば、先ずは金貨を差し出すべし。わたくしはショウ王子と友好を育む為にこの場に来ております。ならば、先ずはわたくしが信じるべきでしょう」
どうやら俺が信じるに値する人物なのかを試しているのだと思っているようだ。
別にそんなことはないのだが、これはこれで好機である。
別にニコポとナデポで爆発するとかそういうことはないのだ、なら試したって損はない。
「よし、それじゃあやらせてもらうぞ。気分が悪くなったりしたら言えよ」
「は、ハイ……!」
そうして俺はメレクの頭を撫でて、とびきりの笑顔を見せる。
それだけで目の前の少女の顔が、緊張したものから頬を染める乙女のものへと変貌していた。
「俺のこと、好きになったか?」
「はい……まるで世界が変わったかのような……ショウ王子のことしか考えられません……」
おぉ、まさにチート能力だ。
「俺の言うことは何でも聞けるか?」
「はい、何でもお申し付けください!」
「そうだな、じゃあここで踊ってみせろ」
「はいっ!」
そう言うと少女は気恥ずかしさなど一片も見せず、軽やかな足取りでバレエのような踊りを披露して見せた。
こうなると、このチートがどれほどの効果があるのかが知りたくなってくる。
「なぁ、お前は俺が死ねと言ったら死ねるのか?」
「はい、もちろんでございます」
これが嘘ではないのなら、文字通り相手の命すら握れるチートだ。
悪用すれば国の一つや二つ簡単に滅ぼせることだろう。
……まぁそんなことしても何も楽しくないのでしないが。
そんなことを考えていたら、親父殿が勢いよく扉を開けてきた。
ちなみに気配を察知していたので、先ほどまでずっと出歯亀していたのは知っている。
「ショウ! 今すぐチートを解け!」
そこで、生まれて初めて真剣な親父殿の顔を見た。
不穏な空気を感じて振り向くと、少女がテラスの敷居に昇っていた。
「ショウ王子への愛を証明いたします」
そう言って愛に狂った少女がテラスから身を投げ出した。
「ウォオオオオオオオ!!」
俺はすぐさま最大の戦闘力を引き出して飛び出す。
空中で自由落下する少女を腕に両腕で抱え、勢いよく地面に着地し、すぐさまナデポした逆の手で少女の頬を叩いてチートを解除した。
そこでようやく俺はチートの力というものを実感した。
これは人を助けることも、国を救うことも……そして、人を死に追いやることも簡単な力なのだ。
「初めましてショウ王子、メレク・シェキナと申します」
「……ショウ15世だ」
恭しくお辞儀をするメレクと名乗る少女とは対象的に、こちらはぶっきらぼうに挨拶すると、おろおろし始めてしまった。
「えっと、あの、ショウ15世、ですか?」
「ハッハッハッ、息子の冗談だよ。笑ってくれていいんだよ」
「そ、そうでしたか。 驚いてしまいました」
ショウ15世というのは親父殿、つまり14世が死んでから名乗る名前だ。
あれだな、日本だったら昭和の時代に昭和天皇って言うくらいアウトなやつだ。
まぁうちのクソ親父は気にしないどころか笑って済ませちまったけどな。
「それじゃあ、あとは若いもの同士ということで」
「あんた何しに来たんだよ」
そう言ってクソ親父と侍女達がささっとテラス席から退場していこうとしたので呼び止める。
「いや待てよ、マジで全員下がらせてどうすんだよ」
「やっぱり周囲に人がいたら話しにくいこととかあるだろう? それに剣聖級の強さを持ち、魔力もSSランクのお前ならお茶のお代わりくらい淹れられるだろ」
「剣技も魔力も茶と関係ねえだろ」
まぁシール先生が淹れてたのを何度も見てたから覚えてるけどよ、それでも一国の王子に淹れさせるのは違ぇんじゃねぇかな。
そんなこちらの思惑など知らないフリをして、クソ親父は小指を立ててそのまま去っていた。
中指とか親指なら分かるが小指は何なんだよ、また変な文化汚染が発生zしてんじゃねぇか?
取り敢えずお相手さんが所在無さげにしているのでイスに座り、座って良いことを示す。
お互いに着席し、紅茶を一口飲む。
そして訪れる沈黙……。
あれか、これ男が会話をリードしろってやつか。
異世界だろうが男は女を引っ張らなければならないらしい。
「あー……そういえばマルクト王朝は今マルクト47世だったか。ウチと違って伝統があっていいな」
「え、あ、あの、その……きょ、恐縮です……」
あれ、なんか相手が萎縮してしまったぞ。
……あぁ、今のはそっちと違ってうちは新人王族だけど文句あんのかって意味にも取れるのか。
別にそんなつもりはないのだが、話題選びがマジで面倒くせぇな。
「し、しかし、ティファレト国のお話もマルクトに負けず劣らず素晴らしいものかと。確か初代ショウ王様が微笑み、そしてその御手をかざされただけで荒ぶる者達を鎮め、国を治めたと言われておりますし」
「ただのニコポとナデポのチートだけどな」
基本、今残っている国の建国者は全員がチート持ちの異世界転生者である。
あと全員が好き勝手に国名をつけたせいで、連邦やら帝国やら皇国やら色々と混じってる。
お前らもうちょい統一させろや。
「しかし、チートも使い方次第です。ショウ王子もいつかその力を使い、この国を幸せに導くことでしょう」
「ニコポとナデポで幸福になる国とか嫌だろ」
大体何をどう使って国を富ませればいいんだよ。
国民全員に使ってブラック労働させるくらいしか使い道が思いつかねぇよ。
そもそも、このチートは一度も使ったことがない。
異性にしか効果が無いせいで奴隷に試し使いすることもできず、どれだけ凄いチートなのかもよく分かっていない。
だから、ふと言ってしまった。
「なぁ、お前に使ってみていいか?」
もちろんそんなことを言われた側はギョっと驚いた顔をしてしまった。
まぁ無理やり惚れさせるチートを使っていいかと聞いてOKする奴なんているはずもないか。
「いや、失言だった。忘れて―――」
「……わたくしで良ければ、是非」
だというのに、目の前のお嬢様はチートの実験台になってもいいと言い出した。
「物を欲するならば、先ずは金貨を差し出すべし。わたくしはショウ王子と友好を育む為にこの場に来ております。ならば、先ずはわたくしが信じるべきでしょう」
どうやら俺が信じるに値する人物なのかを試しているのだと思っているようだ。
別にそんなことはないのだが、これはこれで好機である。
別にニコポとナデポで爆発するとかそういうことはないのだ、なら試したって損はない。
「よし、それじゃあやらせてもらうぞ。気分が悪くなったりしたら言えよ」
「は、ハイ……!」
そうして俺はメレクの頭を撫でて、とびきりの笑顔を見せる。
それだけで目の前の少女の顔が、緊張したものから頬を染める乙女のものへと変貌していた。
「俺のこと、好きになったか?」
「はい……まるで世界が変わったかのような……ショウ王子のことしか考えられません……」
おぉ、まさにチート能力だ。
「俺の言うことは何でも聞けるか?」
「はい、何でもお申し付けください!」
「そうだな、じゃあここで踊ってみせろ」
「はいっ!」
そう言うと少女は気恥ずかしさなど一片も見せず、軽やかな足取りでバレエのような踊りを披露して見せた。
こうなると、このチートがどれほどの効果があるのかが知りたくなってくる。
「なぁ、お前は俺が死ねと言ったら死ねるのか?」
「はい、もちろんでございます」
これが嘘ではないのなら、文字通り相手の命すら握れるチートだ。
悪用すれば国の一つや二つ簡単に滅ぼせることだろう。
……まぁそんなことしても何も楽しくないのでしないが。
そんなことを考えていたら、親父殿が勢いよく扉を開けてきた。
ちなみに気配を察知していたので、先ほどまでずっと出歯亀していたのは知っている。
「ショウ! 今すぐチートを解け!」
そこで、生まれて初めて真剣な親父殿の顔を見た。
不穏な空気を感じて振り向くと、少女がテラスの敷居に昇っていた。
「ショウ王子への愛を証明いたします」
そう言って愛に狂った少女がテラスから身を投げ出した。
「ウォオオオオオオオ!!」
俺はすぐさま最大の戦闘力を引き出して飛び出す。
空中で自由落下する少女を腕に両腕で抱え、勢いよく地面に着地し、すぐさまナデポした逆の手で少女の頬を叩いてチートを解除した。
そこでようやく俺はチートの力というものを実感した。
これは人を助けることも、国を救うことも……そして、人を死に追いやることも簡単な力なのだ。
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