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しおりを挟む(そういえば、頭と腕をあちらでも怪我していたわね)
ジャスミンは、あの教会で結婚式をあげようとした日のことを思い返していた。無理を言って、ねじ込んだ結婚式だったが、ミアの乱入によってジャスミンは怪我をしてしまい、結婚式は取りやめとなってしまった。
ミアは、そのまま捕まり、殺人未遂罪で有罪となったが、ジャスミンへの謝罪は口にすることはなかった。ジャスミンが、暴露したせいだと騒いでいたようで、ディミトリウスがそんな彼女に会いに行ってジャスミンではなくて自分がやったと言ったらしいが、信じはしなかったようだ。
ジャスミンはというと揉み合っている間に頭をミアに花瓶で殴られ、裁ち鋏で腕を切られて、血塗れになって危うく殺されるところでディミトリウスに助けられたことを知った。
胸騒ぎがすると彼が言い出して様子を見に来てくれなかったら、殺されていただろう。
「あの時、ディミトリウスがあなたに会いたいがための口実だと思って、私が引き止めてしまったのよ。それをしなかったら、こんな怪我もせずに済んだかも知れないのに」
傷が残るとなって、ディミトリウスの母親は自分を責めていた。ジャスミンは、そんなこと気にしなくていいと言ってもあまり効果はなかった。
「母上。ジャスミンが困っていますよ。そのくらいで、泣きやんでください」
「そうだぞ。怪我をしたジャスミンに心配かけるな。ゆっくり休ませてやらなくては」
「そ、そうよね」
めそめそとする姿のディミトリウスの母親は、夫に連れられて出て行った。
部屋に残ったのは、ディミトリウスだけだった。
「……気分は?」
「いいです。ただ、頭が幾分か悪くなった気がします」
「幾分なら、問題ないだろう。君は、聡明な女性だから、そのくらいすぐに取り戻せる」
真顔でそう返されてしまったジャスミンは……。
(冗談のつもりだったけど、笑ってくれはしないわね。……まぁ、私が逆だとしても笑えないところだけど)
「ここでは、君は怪我なんてしないと思っていて、油断した。まさか、同じように怪我をして、数針縫うことになるとは……」
「それは、私もです。予測など誰にもできなかったことです。誰のせいでもありません」
「……ジャスミン」
「ここでの式は、諦めます」
「……いいのか?」
「えぇ、ここでの誓いはもう済ませましたから。誰が証人にならずとも、神はご存じです。もとより必要なかったのに拘ってしまったのがいけなかったのです」
「私は、君をよく知る人たちに見てほしかった」
「え?」
ディミトリウスは、ぽつりぽつりと話してくれた。
「私と出会う前の君をよく知る人たちが、あの結婚式に大勢来ていた。君の幸せを願っている人たちばかりだ。そんな君が幸せになる始まりを見てほしかったんだ」
「幸せの始まり……。でしたら、とっくに始まっていますよ」
「ジャスミン」
「あなたと出会ってから、私は幸せです。あそこで、認めてもらわずとも、私がよく知っています」
それを聞いて、ディミトリウスはようやく少し笑ってくれた。
こうして、同じことも起こりうるとわかってからのディミトリウスや周りが、ジャスミンを何かと気にかけてくれながら、ジャスミンはディミトリウスの国で盛大な結婚式をあげることになった。
それこそ、ジャスミンにとっては3度目の正直だった。ジャスミンの友達の令嬢たちも、みんな駆けつけてくれた。それこそ、ジャスミンが幸せになるのを見届けるんだと張り切っていて、結婚した伴侶と婚約者を伴って旅行を兼ねて隣国まで来てくれた。
(ここから、また始まるのね。もう、逃げ帰るために行動したりしないわ)
隣国の公爵家に嫁ぐことになったことで、色眼鏡で見る者や媚を売る者、見下す者やらがたくさんいたが、ジャスミンはディミトリウスとお互いが幸せとなって、自分たちのみならず、自分たちを認めてくれる人たちも、そうでない人たちも幸せになるように心がけ続けた。
そんな二人は、いつしか理想そのものの夫婦だと思われるようになり、色んな人たちの憧れのまととなりながら、仲睦まじく幸せいっぱいで笑顔溢れる一生を送ることが出来たのだった。
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