6 / 31
6
しおりを挟む(やってしまった)
肩でぜぇーはぁーしながら、深呼吸をした結果。ジャスミンは、ようやく冷静になれて頭を抱えたくなっていた。
するとお相手様は、何か言う前に祝いの品をジャスミンに思いっきりぶん投げてきたのだ。言われ放題になりすぎて、言い返したいがろくな言葉が出てこないほどビビっていたのだろう。言葉にならないとわかり、物で不満を返そうとしたようだ。
それを避けきれずにいたのは、ジャスミンの反射神経が悪いわけではなくて、自分の後ろにいる女官が避けるのは難しいと思い、完全に避けられなかったのだ。
(私がやったことの返しを女官に負わせるわけにはいかない)
「っ、」
「ジャスミン様!」
側にいた女官がジャスミンを心配して、後ろからは悲鳴がいくつもあがっていた。
(前は、もっと上手くやれたのに。こんなところで、失敗するなんて……)
ここに来るまでのジャスミンなら、こんなことにはならなかった。ジャスミンが、アーロへの怒りに我を忘れてしまったせいだ。
(当たり散らす相手を見誤った私の落ち度だわ。でも、女官に怪我がなくてよかった)
「……何の騒ぎだ?」
そこにそれまでとは別の人の声がした。
「?」
(誰……?)
物が壊れる音に驚いたのか。扉を開け放ったところに護衛の騎士らしき人ときらびやかな衣装を纏った見目麗しい青年が、怪訝な顔をして立っているのが、ジャスミンのぼんやりする視界でも辛うじて見えた。
「で、殿下?!」
(え? 殿下……?)
ジャスミンは、その声に驚いてしまった。声を上げたのは、アーロだ。
「すぐに手当てをした方がいい」
騒ぎ立てるお相手様など、まるで居ないかのように殿下と呼ばれた青年はジャスミンに近づいて、血の流れているのに気づいて布を差し出してくれた。
ジャスミンは、見ず知らずの男に顔の傷を晒したくなくて、受け取らずに手でおさえて俯いた。
「汚れます」
「気にするな。手より布をあてた方がいい」
「そんな女に布を与える必要はありません。さっさと出て行け。目障りだ。お前との婚約は破棄する!」
(それは、こちらの台詞よ!)
言い返したかったが、ジャスミンにはその余裕がなかった。それこそ、破棄を突きつけるならジャスミンは自分でしたかった。
女官たちが、ジャスミンを支えて移動していたが、それに手を貸すこともなく、殿下の方に猫なで声を出していた。
「殿下。わざわざお見えになるとは、どんなご用件でしょうか?」
「貴様に会いに来たのではない。……ジャスミン嬢、失礼する」
そう言うとジャスミンを姫抱きして、用は済んだとばかりに来た道をスタスタと歩き始めたのだ。
「あ、あの」
「彼女を王城に連れ帰る。いや、その前にどこかで、傷を診てもらう必要があるな」
「ウィロウ様のお屋敷に寄るのは、いかがですか?」
「そうだな。手配しろ。姉上と義兄上には、私から話す」
「はっ」
騎士は、すぐさま動いていた。
女官たちも、ジャスミンにあんなことをしたところに長居したくはないのは確かだが、どうしたものかと困惑していた。
「安心しろ。この方は、この国の王太子殿下だ」
「っ、!?」
女官たちは、ひれ伏そうとしたが、ジャスミンの怪我を心配して、キビキビと行動した。ここに長居する必要はないと素早い動きで片付けをして、ジャスミンの後を追うように騎士たちが案内する場所へと女官たちは急いだ。
騎士たちは、その早さに驚いていたが、ジャスミンの女官たちは仮の泊まる場所だと思っていた。それこそ、ジャスミンを長く泊めるにしては部屋が酷すぎるとして、荷物の半分も荷ほどきしてはいなかったのだ。
いつかは、ジャスミンにあう部屋に移動するものと思っていたら、婚約を破棄して別の屋敷に行くことになることまでは想定してはいなかったが。
23
お気に入りに追加
331
あなたにおすすめの小説
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
念願の婚約破棄を受けました!
新野乃花(大舟)
恋愛
オレフィス第二王子はある日、一方的に婚約者エレーナに対して婚約破棄を告げた。その瞬間エレーナは飛び上がって喜んだが、オレフィスはそれを見て彼女は壊れてしまったのだと勘違いをし、なぜ彼女が喜んだのかを考えもしなかった…。
※カクヨムにも投稿しています!
自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。
Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。
二人から見下される正妃クローディア。
正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。
国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。
クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。
【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前
地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。
あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。
私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。
アリシア・ブルームの復讐が始まる。
私が消えた後のこと
藍田ひびき
恋愛
クレヴァリー伯爵令嬢シャーロットが失踪した。
シャーロットが受け取るべき遺産と爵位を手中にしたい叔父、浮気をしていた婚約者、彼女を虐めていた従妹。
彼らは自らの欲望を満たすべく、シャーロットの不在を利用しようとする。それが破滅への道とも知らずに……。
※ 6/3 後日談を追加しました。
※ 6/2 誤字修正しました。ご指摘ありがとうございました。
※ なろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる