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眩しい光に目を思わず、つぶってしまったジャスミン。強烈な光がおさまったと思ったら、違和感を覚えていた。


「……?」


ジャスミンが、気づいた時には、何とも不思議な感覚がしていた。眩しさから解放されて目を開けて見ると何やら先程までと色んなものが様変わりしていたのだ。


(眠ってしまっていたの……?)


ジャスミンは、姿見鏡の前に立っていたはずが、ベッドに横になっていたのだ。そんなに時間が経っているとは、どうしても思えなかった。目をつぶっていたのなんて精々10秒か、そこらのはずだ。なのにその間に横になっているのなら、気絶していたのかも知れないが、そんな感覚もしないのだ。目が覚めたような感覚でもない。

生まれて初めての何とも言い表せない感覚にきょろきょろと周りを見回すとそこはジャスミンが知っている結婚式が行われる教会の控室ではなかった。姿見鏡もなければ、見慣れた洋風ではなかったのだ。


(本で見たことある。和風というやつよね……? でも、何で??)


装飾が異国風なものばかりとなっていて、首を傾げたくなった。ついさっきまでのことのはずなのに眠ってしまったにしては、そんなものに囲まれたところで、なぜ寝ていたのかがわからない。そんな趣味を持っている友人知人は、ジャスミンの側にはいなかったはずだ。


(どこなの? 式は、どうなったの?)


ジャスミンは、上半身を起こして自分の身体を見下ろした。するとウェディングドレスを着ていなかったのだ。


「え……?」


それどころか、異国の装束を着ていた。しかも、ジャスミンの世界では忌み嫌われる黒髪を自分がしていることに気づいて、ぎょっとして自分の髪に触れたがカツラではなかった。


「っ、」


取れるかと引っ張ってしまい、地毛なことに驚きつつ、痛みに涙目になってしまった。カツラだと思っていたが、地毛だったことにかなり抜けてしまった気がする。痛すぎる。


(まさか、人さらいにでもあったの? こんな風に容姿を変えられるなんて、もしかして結婚式でやろうとしていたことを二人に知られて、その仕返しのつもり? あんまりだわ。一体、何で染めたのよ! 黒髪なんて縁起でもない!)


ジャスミンは、慌てて外を見ようとしてベットから立ち上がると部屋が揺れたのだ。いや、揺れたというか、グラグラしていたのはジャスミンが起きてから、ずっとだったようだが、色々といっぱいいっぱいになっていたようで、起き上がろうとしたベッドに倒れてしまった。


「っ!?」


(地震!?)


コンコンコン。


そこに控えめにノックの音が響いた。

ジャスミンは、その音にバッ!と音がしそうなほど素早く扉を見た。


「ジャスミン様? 大丈夫ですか? これから先、もっと揺れるそうなので、お薬を飲んでお休みになられた方がよいかも知れません」
「……」


ジャスミンは、初めて聞く声のはずなのに。なぜか、その声にホッとしていた。それに首を傾げたくなっていた。


(どうなっているの??)


「ジャスミン様?」
「わ、わかったわ。そうする」


怪訝な声音になっていることにまずいと思って、ジャスミンは慌てて答えていた。


(何で、答えているのよ!? それよりも、ここはどこなのかを聞いた方が……)


だが、ジャスミンは不思議な感覚に襲われていた。


(船の中だったかしら。……そう、何処かに行くのに船に乗っていて……)


ジャスミンは、何処に行こうとしているのかを元から知っているような気が段々してきていた。

そんなことになっているとも知らず扉の向こうから、更に声がかけられた。


「それとこの天候ですので、到着は予定よりかなり遅れそうです。無事に予定のところに着ければよいのですが、もしかすると別のところに着いて、そこから馬車になるやも知れません。そうなるとお相手様の誕生日を直接お祝いするのは、ぎりぎりになりそうです」
「……」


(お相手様って、婚約者のこと、よね?)


聞き慣れない言葉にジャスミンは、なぜか、婚約者のことだとすぐに理解できた。それに疑問だらけになり、わけがわからなくなっていた。


(何で、理解できてしまうのかしら?)


「ジャスミン様? 大丈夫ですか?」


(色んな意味で駄目かも。わけがわからなすぎて、頭が痛くなってきたわ。これは、そもそも、現実なの?)


そんなことを思っていると扉の向こうのジャスミンの世話をしているらしい女性は、船酔いが酷くなったのだと思ったようで、薬を飲んで休むように再度言っていなくなった。声をかけている彼女も、気持ち悪いらしく、うぷっと言って口を何度もおさえていた。

ジャスミンが醜態を晒すよりも、彼女自身が危うくて部屋に入って来なかったのかも知れない。

頭の中が混乱しすぎているのと次第に激しくなる揺れに本当に気持ち悪くなったジャスミンは、酔いどめを飲んで眠ることにしたのは、すぐだった。


(目が覚めたら、結婚式のはず。私が死んだ後が、どうなるか見れないのが残念だわ。きっと、地獄で会えることになるわよね)


それでも、このままではお金の力でもみ消して、浮気していた二人がくっつくかもしれない。

それか、初恋の人がジャスミンのことを嘘つき呼ばわりして、認めないかも知れない。


(……それはそれで、腹が立つわ。あの手紙と証拠写真だけじゃ、破滅にさせるのは無理かも知れない。だから、大勢の前で私は死んで抗議して、出席してくれた人たちに何があったかを知ってほしいと思ったのよ)


それが、ジャスミンの生まれて初めて成就させたいことだった。

そんなことでしか抗議できず、ジャスミンには色々ありすぎて他にやりようがあったとまでは行き着いていなかった。

それこそ、そんなんだから馬鹿だと浮気している二人には笑われて馬鹿にされていたのだろうが、この時のジャスミンにはそんな余裕など全くなかったのだ。

彼らだけを地獄に落とそうとするのではなくて、一緒に落ちようとする辺りが、ジャスミンという女性だった。そんな想いをしていることをどれほどの人が受け止めてくれるかはわからないが、結婚式でやりたいことはとにかく死んで抗議することだけだった。


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