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しおりを挟むミュリエルは、それから反省をしたようだ。
「本当にごめんなさい」
「お義姉様。もう、謝罪は無用です」
「でも」
あれから、トレイシーが王太子の婚約者となってから忙しくしていて、商人のところに顔を出せないのを気にしていたら、ミュリエルが代わりに様子を見に行ってくれて、そこでトレイシーと同じく商売の才能があるとして、働くことになった。
この国一番の美人が店にいるのだ。その商人は、大喜びしていた。店の繁盛よりも、商才があるのを見いだせて嬉しそうだった。
「ミュリエル様も、独創的でいらっしゃる」
「私のは、元婚約者の受け売りばかりよ。トレイシーの方が凄いわ」
ミュリエルは、元気になってラヴェンドラに商談に行くようになり、そこでパーシヴァルと出会ったようだ。
パーシヴァルは、トレイシーが記憶喪失となり、隣国で元気に過ごしているとわかって、ホッとしながらもやはり落ち込んでいた。
でも、王太子の婚約者となってからは再びどん底に落ち込んでしまったようだが、彼の父親は何もしようとせずに落ち込むばかりの息子をけしかけることもしなかった。
そんな2人の出会いも蟻の行列を眺めるところから始まったようだ。
ミュリエルもまた元婚約者の言っていたことを口にしたが、それを最初にしたのがトレイシーだと言うことを知らないままだった。
「……あなたも、蟻に詳しいんですね」
「そうですね。元婚約者が、色んな話をしてくれたので」
パーシヴァルは、それが兄と慕っていた先の王太子だと気づいたのも、すぐのことだった。そして、ミュリエルがトレイシーの義姉になったことも知っても、彼女に何も言わなかった。
「あなたは、不思議な方ですね」
「不思議ですか? 頭がおかしいとはよく言われますが」
「おかしなところなんて、どこにあるんですか?」
「っ、」
ミュリエルは、心底わからない顔をしてパーシヴァルを見た。それを見て、彼は二度目の恋をした。ミュリエルが美人だったからではない。心が美しいことに恋をしたのだ。
彼はトレイシーの時のように父にあれこれ頼ることはなかった。頼るより先に行動した。その場で即座に求婚したのだ。
初対面なのにミュリエルもまた元婚約者に似た子息に惹かれていたが、それが従兄弟同士だと知る前に婚約することになり、従兄弟同士だと知ってから驚くことになった。
巡り合うべくして、巡り合ったようにパーシヴァルの父には見えてならなかった。
ミュリエルが義理の娘になるとわかり、父親は大いに喜び、国王は弟がほしいものを手にしたことを知って悔しがった。
だが、国王が悔しがる姿を見ても、王弟は前のように親しそうにすることはなかった。
王太子だった第2王子のフィランダーとその婚約者だった令嬢のマーセイディズが、2人とも毒を飲むことになったのは、国王が裏で指示していたから起こったことだと知っていたからだ。
国王は、2人っきりの時でも兄上と呼ばなくなっていることにも気づいていなかった。国王は、第3王子が生まれたことで、ポンコツすぎた出来損ないの第2王子を見限って、王太子を末の王子にさせようとして、あんなことをしたのだ。
息子を殺そうとした兄を王弟が許すことはなかった。
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