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ルパートに世話になったこともあり、彼の妹は土産のセンスの良さに何があったのかを兄に聞いて、トレイシーに興味を持ったようで、しばらくしてから会うことになった。


「あなたが、トレイシーさん?」
「はい。トレイシーです。お兄様にはお世話になっております」
「初めまして、私はミュリエル・ラジヴィウ。こちらこそ、素敵なお土産を選んでくれて、ありがとう。とても気に入っているわ。兄がくれるもので、期待したことないのだけど」


チラッとミュリエルは部屋の中で浮いているものを見た。

その視線を辿ったトレイシーは、絶句してしまった。


(あれを選んだの……? それか。私のように誰かに聞いて、そのまま鵜呑みにしたのか。自力で買ったのか)


自分には妹が喜ぶものが、選べないとわかってトレイシーと同じことを繰り返していたのかもと思うとそれをもらって、部屋に置いているミュリエルは、かなり優しい方のようだ。

置いておくだけでも、不気味なものもある。何を思って買ったのだろうか。

そこから、ルパートから記憶喪失なことやらを聞いたのか。何かとトレイシーのことをミュリエルは気にかけてくれるようになったが、トレイシーは逆にミュリエルが気になってしまった。

彼女は自分のことを語らないが、周りが色々噂しているのを耳にした。ラヴェンドラで、婚約者を亡くして戻って来てから塞ぎ込んだままだと未だにその人を忘れられないことをあれこれ話すのをトレイシーは耳にした。

ミュリエルは、この辺で見かける女性の中でも飛び抜けた美人だ。求婚して来るのも未だに多いはずだが、それを断り続けていた。

あと少しで結婚するはずだったらしく、それまでとても元気だったのに。突然、亡くなって別れることになり、結婚していないこともあり実家に戻って来ることになったが、そこでも色々言われているのだ。

ミュリエルが美人すぎて、やっかむ人たちの言葉が一番酷かった。その中には、兄のルパートに想いを寄せている者が多くいるようだ。妹を気にかけすぎて、婚約しないと思われていて、目の敵にされているのだ。


(仲良くなって取り入ろうとは思わないのね。ルパート様の急所は、どう見ても妹さんなのに)


だから、トレイシーがミュリエルを気にかけて仲良くなっているわけではない。ルパートには、全く興味はない。世ではイケメンだと言われるだろうが、トレイシーの好みではなかった。

トレイシーは記憶がないままだが、未だに誰かを想っていた。それが誰なのかはわからないが、ミュリエルを見ていてひしひしと感じた。記憶がなくなっても、心の中でその人を想っているのだ。誰とも語らえずとも、それが誰だったかを思い出せなくとも、トレイシーはその人を想っていた。それだけが残っていれば、どこの誰だったかをわからなくても良かった。

そんな2人が、まるで姉妹のように仲良くなるのも、すぐのことだった。

ミュリエルは塞ぎがちだったが、トレイシーは働きながらミュリエルのことを姉のように慕い、顔を見せに通った。そして、誰もが家からどころか部屋からも出せずにいたのを外に連れ出すまでになったのだ。

それにミュリエルの両親や使用人、ルパートも喜んだ。ミュリエルの笑顔が増えていくのを彼女を心配していた者たちは喜んだ。

トレイシーは他の人たちに好かれ、彼女を気に入った商人の家は益々栄えることになった。


「トレイシーさん。ぜひ、我が家の養子になってくれ」
「え?」


ミュリエルと仲良くしていて元気にしているのを見て、彼女の両親は、トレイシーを娘にしたいと言い出すまで、すぐのことだった。

商人も、自分の娘にしたがだていたが、ラジヴィウ公爵家の娘になった方がトレイシーのためになるとして、説得され養子になることになった。


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