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「まぁ、後見人より、養女になりゃ、いざという時に出来ることは多いのは事実だがな」
「でも、アカツキ様は、独り身ですよね? 養女なんてなったら、奥さんと結婚する時、私、邪魔になりませんか?」
「その心配ならいらねぇぞ。俺は結婚する気はねぇからな」


気にするなと言われても、鬼族の御曹司で独り身は、アカツキだけだと言うことをカゲツキから聞いていたので、そういうわけにはいかないのでは?と思っていた。

鬼族に女性が生まれることは少なく、人間か鬼化する女性が殆どだそうなのだが、恨みつらみから角や牙を生やしたりした鬼女は、気性が荒々しく気が合わないとアカツキは言っていた。

嘆き悲しみから生まれた鬼女は、女々しいとも言っていたが、会ったことがないのでわからない。

アカツキの部下に鬼女も生粋の女性の鬼は居ない。どこを見ても、男の人ばかりだ。

あやかし学園の理事長は、数十年単位で、鬼族の頂点に立つ者たちが持ち回りでやる仕事らしく、丁度アカツキがやっている時にカレンが入学することになったのだが、面倒くさい事務仕事ばかりで、サボる口実になると思っていたが、思わぬ拾いものをしたようだ。カレンが来るなり、茶菓子やら何やらを部下に用意させるほどで、相当気に入られているのだとは推察出来たが、カレンが鬼族と普通に接するのがわかるや一体、どこに隠れていたのかと思うほど多くの鬼たちが何かと声をかけるようになり、アカツキに用もねぇのに話しかけるんじゃねぇ!と一喝されるまで、カレンは大して気にすることがなかった。


養女になるべきか、悩んでいたカレンは、入学準備に付き添ってくれているカゲツキに色々と聞いてみたが、カレンを養女にしていることで結婚に物申すような鬼女をアカツキが選ぶとは思えないと言うので、それには納得した。

それにもうすぐ、卒業式だ。後見人となったこととあやかし慣れするべく、孤児院からアカツキの別宅の方に居候させてもらっている。カレンなら、本宅の方でも平然としていそうだが、養女になったのなら問題ないが、後見人程度では一緒に住むのは難しいらしい。

忙しいだろうにそこに顔を出しに来るアカツキに仕事にならないのではなかろうかと思い、毎日学校帰りにアカツキのところに行くようにしている。カゲツキは、もはやアカツキの秘書と言うよりカレンの世話係や運転手のようになっていて申し訳ないが。

学園が始まれば、寮生活になるからと毎日でも会えると喜ばれるのは、凄くわかる。

学校も残りわずかなのにぎくしゃくしたままで、居心地が悪くて甘えているだけなのだが。

アカツキ慣れどころか、鬼慣れして平然とするカレンは人間の特徴しか見受けられないが秘めたる何かがあるのだと思われているようだ。



カレンには、卒業式に関して憧れていることがあった。

両親が物心ついてから居ないカレンにとって、式典に両親が出席している友達が羨ましくて仕方がなかったのもあり、そう言う話をしつつ、でも、アカツキは忙しいだろうから無理だろうなと寂しげに言えば、苦笑しながらカゲツキに言った。


「もしも、養女となられたカレン様の卒業式ならば、何を差し置いてもお出になられると思いますよ」
「それだと部下の人たちが血の涙流して仕事することになりそうなんだけど……」
「アカツキ様の義娘となられれば、我ら鬼族の姫君です。姫君のためならば、嫌だと申す鬼は、おりませんよ」


(それは、それで、心配になるのだけど……? いいのかな?)


時間もないし、駄目なら駄目でいいやと養女になることを了承して、思いきって卒業式の話をしたら、両手をガシッ!と握りしめられて、死んでも出るぞとアカツキに言われてカレンは、それは2度も父親が居なくなるから嫌だと言いながら、死ぬとか言わないで長生きしてと泣きながら言えば、アカツキはおろおろとしてしまった。


「す、すまん。言い方が悪かった。俺が悪かった」


こうして、後見人から赤鬼が義父となることになったのは、卒業式まで1週間をきった頃のことだった。


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