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千沙都が、麻呂サンの飼い主のように思われたせいか。休みになるとドッグランに遊びに行かないかと一希に誘われることが多くなった。


「ねぇ、やっぱり付き合ってるんじゃないの?」
「絶対ないわよ」
「寧々が何で言い切るのよ?」


クラスメイトだけでなく、他のクラスの女子生徒からも幼なじみだからって仲良すぎだと嫌味を言われ始めたのも、この頃からだった。


(それもこれも、毎週のようにドッグランに行こうって誘うせいなのよね。勘弁してほしいわ)


麻呂サンが、千沙都がいるといないとでは違うらしい。千沙都がいないとわかるとそもそも、ドッグランには行きたがらないまでになっているようだ。

そのため、渋々千沙都を一希は誘ってくるのだ。それを幼なじみのことを理解しきれてない面々は、付き合ってるんじゃないのかと騒ぐのだが、寧々はあの一件以来、同じように騒ぐことはなかった。

それどころか。よく千沙都の味方してくれていたが、なぜ言い切れるのかをあの光景を見たまま説明することはなかった。

千沙都が猫好きだからと答えているのを聞いて、説明しづらいだろうなと千沙都は遠い目をしていた。

寧々も、やたらとドッグランに誘うのにふと疑問が持ち上がったようだ。2人っきりの時にこそっとこんなことを聞いて来た。


「流石にドッグランに犬は忘れては行かないのよね?」
「聞きたい? 行く時のことにする? 行った後のことにする?」
「いい! 涼しくなるのは、あの日だけで十分!!」
「……」


寧々も、一希のことがわかってきたようだ。耳を塞いで拒絶していた。まるで、怖い話を聞かないようにするかのような必死さだった。

確かにちょっとした怖い話よりも、怖いところがあるかも知れない。


(まぁ、あの出来事を話したところで信じてはもらえないわよね)


それこそ、話したところで、話した方の頭の心配をされるのがオチだろう。それは、千沙都にも心当たりがありまくるから、よくわかる。


(見た目がいいとこうも違うのよね。これが、見た目が難点だらけだと印象も違うんだろうけど。得してるのか。損してるのかがわからないわ。確実に私は、損していることだけはよくわかるけど)


ある日、千沙都のクラスメイトの男子生徒が、やたらと千沙都をドッグランに誘って断られてるのを見かねたようだ。


「猿渡。お前、何で、そんなに神山さんのこと誘ってるんだ? 彼女、幼なじみってだけで、犬好きってわけではないんだろ?」
「そうだな。神山は猫好きだ。犬の魅力なんて、欠片もわかってない」
「なら、しつこくドッグランに誘うのおかしくないか?」
「麻呂サンが、神山が行かないと行きたがらないんだよ」
「でもさ。こないだ、神山さんに動画見せてもらったけど、あれ、嫌がってるんじゃないか?」
「そんなことねぇよ」
「でも、飼い主より、幼なじみが一緒じゃないと行きたがらないってことは、ドッグランに犬友いないんじゃないか?」
「……」


どうやら、一希はそれが気に入らなかったようだ。千沙都が居なくとも、ドッグランに無理やり連れて行って麻呂サンが嫌がって遊ばない姿を見て、やはり本当の飼い主は別にいるのではないかと言われ、更には初めて犬を飼い始めたかのようにドッグランの常連たちに世話をやかれ、ドッグランが好きではない犬もいると諭されたようだ。

そんなことがあったなど知らない千沙都は、それから毎週のようにドッグラン行きを誘われていたのが、ピタリとなくなって首を傾げるばかりだった。


「誘われなくなったわね」
「うん」
「クラスの男子が言ったのが響いたのかもね」


寧々が、千沙都にドッグラン行きについて話しかけて来て、千沙都は麻呂サン関連の話をするだけでイライラするようになった幼なじみに麻呂サンの散歩事情のことすら、確認ができなくなっていた。


(あの顔は、気に入らないことを言われた顔なのよね。クラスメイトの男子の時は、あそこまでじゃなかった。……ドッグランに無理やり麻呂サン連れてって、あそこで何か言われたのかも。流石に常連の人たちに色々言われたら、無類の犬好きでも、言い返せなかったのかも)


無類の犬好きが、犬好きに色々言われたせいで落ち込むのではなく、苛立っているような気がした。

千沙都は、そんな彼を見るのは初めてだなと思っていた。それを根掘り葉掘り聞くと八つ当たりされるのを知っている千沙都は、程よい距離から眺めているだけにしていた。その辺は慣れたものだ。


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