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しおりを挟む次の日。一希に夕食のことを千沙都は聞く気は全くなかった。2日連続で、千沙都の家の夕食が散々なことになったのだ。もう、今日の夕食は平穏に楽しみたいと思っていた。色々あるのなら、幼なじみの家の愛犬のことだけで手一杯だ。
だが、そんなことを全く知らないで、その話をしてきたのは、幼なじみの方だった。こんなところは、怜久に似ているとつくづく思ってしまう。
どうやら彼のところの昨日の夕食はオムライスではなかったようだ。それを聞いて千沙都は、適当に聞き流そうとしていたのをやめて、目をパチクリとさせて一希を凝視してしまった。
「え? オムライスじゃなかったの? おばさんがオムライスが夕食って言ってたけど……」
「それがさ。母さん、卵買うの忘れてたらしくて、チーズドリアになったんだよ。ほら、花粉症が酷くて出かけられなかったみたいなんだよ」
「……そうなんだ」
昨日のことを思い返して、千沙都は何だったんだと思って愕然としてしまった。
(買い物した後で会ってるから、ツッコミどころ満載過ぎだわ。オムライス食べる気でいて、肝心の卵買い忘れるって、中々ないわよね。しかも、ランチに出かけたことは内緒にしたみたいだし。……おばさんに会ったって言っても疑問をもたないのも、猿渡よね。聞いてるようで人の話聞いてない証拠よね)
とんでもない誤魔化し方があったものだ。千沙都に話したことで、スッキリしたのかも知れない。
思わず、おばさんが言っていたとポロッと話してしまったが、そこを追求されることはなかったことに千沙都は、幼なじみを何とも言えない顔をして見ていたが、それすら一希は全く気にしてはいなかった。
「まっ、母さん、オムライスより、チーズドリア食べたかったみたいだから良かったみたいだけど」
「……それも、おばさんが言ってたの?」
一希は、千沙都の言葉を聞いてみれば、すぐに頷いていた。それを見て、千沙都は遠い目を思わずしてしまっていた。何なら、頭痛もしてきた。気のせいではないはずだ。
(日替りランチにチーズドリア食べたって聞いたんだけどな。深く聞くんじゃなかった。もう、本当にわけわかんない人だわ)
どうやら、一希の母親はランチが食べたくて外に出たことを知られたくなかったようだ。その上、買い物に立ち寄ったのに忘れてしまったことも上手く隠して、買い忘れているのに気づいても、花粉症が酷くて出かけたくなかったことにしたようだ。
それを聞くことになった千沙都は、前日にあったことを幼なじみに話すことはなかった。
その後も、一希の母親は日替りランチを食べて、本来食べたかったものを作ろうとしては、ランチと同じものを夕食に作ることが度々あったことを千沙都は、タイミングよく知ることになった。
それこそ幼なじみの母親が気にしていれば、その話を千沙都にしなかったと思うのだが、全く気にしないのか。はたまた、その話と変わらないことを結構な回数していることを忘れてしまうのかはわからないが、千沙都は暗記物の勉強が得意なせいで、そういったものを覚えたままになってしまって、千沙都だけが気になるはめになるとは思いもしなかった。
(むしろ、ランチと同じメニューを作ることになる方向に向かうことの方が凄い気がしてきた。これは、おばさんが凄いのか。その話を私が聞くことになる確率が凄いのか。いや、凄いっていうレベルなのかな? ……なんか、よくわからなくなってきた。もう、そんな話を私に振らないでほしいわ)
千沙都は、あまりにもすっきりできずにぼんやりと夕食を食べていて、家族に心配されて一希のところの夕食の話をした。
「それ、あなたが幼稚園の頃からやってるわよ」
「え?」
「たまたま、ランチを食べた時に食べたいものを言っておいて、日替わりを注文して美味しくないとか言うのよ。それで、夕食に食べたい物を作るって言っておいて、ランチで食べたものになるのよ。それを聞いてるだけで、げんなりするのと約束をよくすっぽかすから、誘わなくなったのよね。全然変わってないみたいね」
母は、一希の母親で苦労したようだ。
(つまりは、昔から全く変わりないってことなわけね。知りたくなかったわ)
そんなことをしていたなんて知らなかった千沙都は、母も苦労したんだなと思ってしまった。
「お代わり」
そんな会話をしていたら、怜久がお代わりと言い出して兄だけがまともに聞いていなかったようだとわかり、千沙都と両親は半眼で怜久を見てしまった。
「? なんかあった?」
怜久は、不思議そうに首を傾げていたが、他の家族がカノジョと破局するのも、そんなに遠くないのではないかと思ってしまったことに兄だけは気づいていなかった。
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