上 下
16 / 53

16

しおりを挟む

「物々交換できるものないの?」
「は? んなの急に言われても……」


こういう時、怜久だけが未だにこのノリについてこれないのだ。それどころか。毎回、何の交渉もできない。何も思いつかないのが、怜久だ。


(ん? でも、あれって……)


千沙都は、母の持つチラシに違和感を覚えて、自分のもらったものと見比べていた。違和感の正体に気づいたのは、すぐのことだった。


(あ、そういうことか。もはや、流石としか言えないわ)


千沙都は、チラシの違いに気づいてしまった。


「仕方がないわね」
「いいのか? サンキュー、……って、これ、開催するって予定だけじゃん!?」
「そうよ? 割引チケットもらえるとしたら、千沙都が行った時にもらえるんじゃないかしら?」
「その時は、ちゃんと物々交換するんだぞ?」


それまでに何かしら用意しておけと両親は怜久に言いたいのだ。


(やっぱりね)


千沙都は、そんなことではないかと思っていたが、その通りだったようだ。

怜久は、助けを求めるかのように妹を見たが、千沙都はにっこりと笑っているだけだった。


(ここで、何もなくもらえるとは思わないわよね?)


それを見て、兄は交渉のつもりなのか。こんなことを言った。


「千沙都。どうせ、カレシいないんだから、カップル限定の割引チケットなんて必要ないだろ?」
「……」


千沙都は、その言葉に頬がひきつってしまった。よりにもよって、カチンとくる言葉を投げかけて来たのだ。


(何で、そんなこと言うかな。カノジョと上手くいくように散々サポートしたのに。……というか。こんなにデリカシーないのにフォローしなきゃ、すぐ愛想を尽かされそうだわ)


両親は、不容易なことを口走った怜久に眉を顰めていた。


「怜久。それは、失礼すぎるわよ。千沙都は、とっても可愛いのよ? その頃には、カレシができてる可能性は高いわ」
「確かに千沙都は、可愛いからな。確率は高いが、高いのは認めるが……」


母と煮えきらない父の援護射撃に千沙都は苦笑してしまった。父親としては、カレシがいる確率が高いのはわかるが、できてはほしくないのだろう。


「いや、ほら、スイパラなんて続けて行ったら、確実に太るだろ?」
「あ゛?」
「っ、」


太ると決めつける怜久に思わず、恐ろしい声が出てしまったが、千沙都は悪くないはずだ。


「千沙都。物々交換なんて生ぬるいことしなくてもいいわよ」
「そうだな。することない」


こうして、両親が兄のデリカシーのない言葉を耳にして、そう言っていた。千沙都も言われなくとも、その気はなかったが微笑んだだけだった。


(こんなんで、カノジョと上手く付き合っていけるのかしらね)


千沙都は、そんなことを思って兄のことを白けた目で見つめた。

兄のあり得ない言葉を理解したのか。愛猫が、怜久の足に爪とぎをしていた。


「いでぇー!!」


(ざまぁみろ)


そう思った千沙都は、悪くないはずだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三度の飯より犬好きな悪役令嬢は辺境で犬とスローライフがしたい

平山和人
恋愛
名門貴族であるコーネリア家の一人娘、クロエは容姿端麗、文武両道な才女として名を馳せている。 そんな彼女の秘密は大の犬好き。しかし、コーネリア家の令嬢として相応しい人物になるべく、その事は周囲には秘密にしている。 そんなある日、クロエに第一王子ラインハルトとの婚約話が持ち上がる。王子と婚約してしまったら犬と遊ぶ時間が無くなってしまう。 そう危惧したクロエはなんとしても婚約を破棄し、今まで通り犬を飼える立場になろうと企む。

両親や妹に我慢を強いられ、心が疲弊しきっていましたが、前世で結ばれることが叶わなかった運命の人にやっと巡り会えたので幸せです

珠宮さくら
恋愛
ジスカールという国で、雑草の中の雑草と呼ばれる花が咲いていた。その国でしか咲くことがない花として有名だが、他国の者たちはその花を世界で一番美しい花と呼んでいた。それすらジスカールの多くの者は馬鹿にし続けていた。 その花にまつわる話がまことしやかに囁かれるようになったが、その真実を知っている者は殆どいなかった。 そんな花に囲まれながら、家族に冷遇されて育った女の子がいた。彼女の名前はリュシエンヌ・エヴル。伯爵家に生まれながらも、妹のわがままに振り回され、そんな妹ばかりを甘やかす両親。更には、婚約者や周りに誤解され、勘違いされ、味方になってくれる人が側にいなくなってしまったことで、散々な目にあい続けて心が壊れてしまう。 その頃には、花のことも、自分の好きな色も、何もかも思い出せなくなってしまっていたが、それに気づいた時には、リュシエンヌは養子先にいた。 そこからリュシエンヌの運命が大きく回り出すことになるとは、本人は思ってもみなかった。

母は、優秀な息子に家の中では自分だけを頼ってほしかったのかもしれませんが、世話ができない時のことを全く想像していなかった気がします

珠宮さくら
恋愛
オデット・エティエンヌは、色んな人たちから兄を羨ましがられ、そんな兄に国で一番の美人の婚約者ができて、更に凄い注目を浴びる2人にドン引きしていた。 だが、もっとドン引きしたのは、実の兄のことだった。外ではとても優秀な子息で将来を有望視されているイケメンだが、家の中では母が何から何までしていて、ダメ男になっていたのだ。 オデットは、母が食あたりをした時に代わりをすることになって、その酷さを知ることになったが、信じられないくらいダメさだった。 そんなところを直す気さえあればよかったのだが……。

姉に問題があると思ったら、母や私にも駄目なところがあったようです。世話になった野良猫に恩返しがてら貢いだら、さらなる幸せを得られました

珠宮さくら
恋愛
幼い頃に父が亡くなり、母と姉と暮らしていた栗原美穂。父方の祖父母は、父にそっくりな姉を可愛がり、母にそっくりな美穂は嫌われていた。 そんな美穂は、姉に日々振り回されていた。シングルマザーで必死に働いて育ててくれている母を少しでも楽にすることを目標に美穂はずっと頑張っていた。自分のことは二の次にして、家事と勉強と少しでも母の負担を減らそうとバイトまでして、余裕のなくなっていく美穂を支えたしてくれたのは人間の家族ではなくて、一匹の野良猫だった。 その猫に恩返しをしようとしたら、大事な家族が増えることになり、奇妙な偶然から美穂は新しいかけがえない家族を築くことになっていくとは、思いもしなかった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

2人の幼なじみに迷惑をかけられ続け、それから解放されても厄介ごとは私を中々解放してくれず人間不信になりかけました

珠宮さくら
恋愛
母親たちが学生の頃からの友達らしく、同じ年頃で生まれたことから、幼なじみが2人いる生活を送っていたフランソワーズ・ユベール。 両方共に厄介な性格をしていたが、その一切合切の苦情やらがフランソワーズのところにきていて迷惑しか被っていなかった。 それが、同時期に婚約することになって、やっと解放されると思っていたのだが……。 厄介なものから解放されても、厄介ごとがつきまとい続けるとは思いもしなかった。

私の推しメンは噛ませ犬◆こっち向いてよヒロイン様!◆

ナユタ
恋愛
十歳の誕生日のプレゼントでショッキングな前世を知り、 パニックを起こして寝込んだ田舎貴族の娘ルシア・リンクス。 一度は今世の幸せを享受しようと割りきったものの、前世の記憶が甦ったことである心残りが発生する。 それはここがドハマりした乙女ゲームの世界であり、 究極不人気、どのルートでも死にエンド不可避だった、 自身の狂おしい推し(悪役噛ませ犬)が実在するという事実だった。 ヒロインに愛されないと彼は死ぬ。タイムリミットは学園生活の三年間!? これはゲームに全く噛まないはずのモブ令嬢が推しメンを幸せにする為の奮闘記。 ★のマークのお話は推しメン視点でお送りします。

処理中です...