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しおりを挟む既に右を見ても左を見ても、どこに視線をやってもワンコだらけで、千沙都はそこから帰りたくなっていた。
中々人気のドッグランのようだが、千沙都はそれにげんなりしてしまった。
(これが、猫だったらな)
千沙都にとって、猫だらけなのは天国でしかない。日がな一日、日向ぼっこしていたり、そういうスポットの猫溜まりを探すのも千沙都は好きだ。そんなことをして、とんでもないところまで歩いたことがあるが、方向音痴ではないためバスで戻ったことが何度かあったほどだ。
それは、千沙都の家族も同じで、父も外回りの時に見つけた猫の写真を家族で共有したりしていた。母も、猫を見つけては写真を撮るのだが、母の写真は面白い写真が多くて、可愛く撮れないことが悩みのようだ。
だが、兄は母よりも酷かった。怜久が写真を撮ろうとしている間に大概逃げられるか。ブレブレの写真ばかりを共有するのだ。そんなものを共有されてもと両親や千沙都は思っているが、兄的には撮れていると思っているようだ。
千沙都は、お昼寝していたり、のんびりとしていたり、大はしゃぎしているものばかりで、家族にはその場にいることをよく羨ましがられていた。
ここが猫のスポットなら、片手におもちゃとスマホを持って、写真を撮りまくっているところだが、犬相手だと千沙都はそうはならなかった。
そんなことを思っているなど知らない一希は、愛犬に話しかけていた。
「麻呂サン。友達と遊んでおいで」
頑なに一希は麻呂サンの友達だと思っていて、遊んで来いと言われるたび、戸惑った顔をして麻呂サンは千沙都を見た。他から見たら、不思議な図式になっていたはずだ。
麻呂さんの目は、本気で行かなきゃ駄目なのかと言っているように千沙都には見えてならなかった。そんな目を向けられても、困ってしまう。
「どうした? 神山に遠慮することないぞ」
「ちょっと、私に遠慮って、何なの?」
「お前がいると麻呂サンが、いつも気を遣ってるだろ。わからないのか?」
「……」
(気を遣ってるって、思ってるんだ。まぁ、どちらがというか。どちらも、お互いに気遣ってるかも知れないけど。私としては、麻呂サンが、楽しければ何でもいいや)
あまりにも、一希から遊んで来いと言われる麻呂サン。千沙都を見つめる目に諦めが見え始めて渋々ながら、ドッグランの中央に向かうとすぐさま雄犬たちに包囲されていた。
その光景を見ていて、千沙都は……。
(頑張れ、麻呂サン。……なんか、モテてるというか。これ、イジメられてたりはしないよね?)
その後、麻呂サンが全力疾走して逃げ惑い、中々の健脚を披露した。その速さに千沙都が驚いている間に麻呂サンは千沙都の後ろに隠れた。丁度、追いかけ回していた犬たちの盾にするかのように麻呂サンは隠れたのだ。
(え? 何、今のが、ドッグランでの遊び方なの? 全力で、リアル鬼ごっこしているようにしか見えなかったんだけど……、あんなに必死に逃げ惑うのが、ワンコの戯れなの? わからないわ)
ぜーはーしている麻呂サンにお水を飲ませたのは、一希だ。飲み終えても、千沙都のところから離れることはなかった。むしろ、先程より千沙都にぴったりとくっついていた。
「何で猫好きなくせに麻呂サンは、お前に懐いてるんだ?」
「……何でだろうね」
(これは、懐いているというより、安全地帯だと思われてない……?)
物凄く不満そうに言われても、知らぬ存ぜぬを貫いておいた。話したところで、一希には伝わらないのだ。話すことなど、千沙都にはない。
(犬嫌いの我が家のお猫様ですら、麻呂サンには物凄く優しいのよね。まぁ、犬嫌いのアインシュタインが優しくしてるなんて、一希に話したところで認めようとしないだろうけど)
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