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第1章
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しおりを挟む“満喫したようね”
「物凄く。ユグドラシル様が紹介してくれた人も、凄く親切にしてくれました」
“聞いています。蜂蜜の食べ比べをお土産に貰ったのに度肝を抜かれたようですよ”
ユグドラシルの言葉にアルテアは、目を泳がせた。ユグドラシルは楽しそうに笑っていた。
「あ、もしかして、迷惑でしたかね?」
“まさか。早速、自慢して回ったようですよ”
「え? 自慢??」
アルテアは、そんなことをする理由がわからなかった。
(自慢って、何で??)
“蜂蜜の食べ比べができるような人物と知り合いになれたことは、あの者には名誉なことなのです。それを伝えれば、見下し始めていた者たちも一目を持たざる終えなくなる。今は、木々の声を聞けるだけの者ほど、古臭い遺物は必要ないと言う者も増えていますから。そうでないと思わせるのも大事なんですよ”
「……」
ユグドラシルの言い方にアルテアは、遠い目をした。言い方から察するに怒っているのは、間違いない。遺物扱いしている連中のことを物凄く嫌っているのが、アルテアでもわかった。
(そっか。それもあって、貰いすぎてると言ったのね。それに今後のこともあるし。……本当にいい人だな。孫扱いするのは、ちょっと考えものだけど)
そんなちゃっかりしたところにアルテアは、ふふっと笑ってしまった。アルテアとクリティアスだけでは、食べきれない蜂蜜をもらったのだ。
(お菓子作りをするからって、張り切り過ぎよね。より美味しいものができるといいと思っているのよね。競えるようにしたのは、私だもの。頑張らないと)
女王蜂たちは、あの花畑に入れずとも、あそこでしか自生しない花の蜜を採れずとも、自分たちの集めた蜂蜜の入ったお菓子を妖精が気に入ってくれることを期待していて、そちらの方に興味があるようだ。
その張り切りっぷりのせいで、アルテアはお菓子が上手くできるかも気になっていた。
(試行錯誤しても、好みが甘い物だけだとわからないのよね)
森の主のユグドラシルのところにアルテアは来ていた。クリティアスは、一番最初に呼ばれ、次に花畑うんねんの時以来、来てはいない。
アルテアが、更に貴重な存在かも知れないと思ってもいるようで、危険がないかを気にかけてくれているようだが、この森の中でなら問題ないと思ってもいるようだ。
それよりもアルテアは、こんなことを思っていた。
(人間の姿になるのって、やっぱり疲れるのかな?)
森に戻るなり、クリティアスは熊の姿に戻ってしまったが荷物運びも、そちらの方が楽だと彼は言っていた。
ツキノワグマが、荷物を背負い両手に荷物を持つ姿は中々シュールだった。
(そういえば、街でも人間の格好を完璧にできている大人はいなかったな。私は、ハロウィンの仮装をしているように見えて、なんか見慣れない感じがしたけど。尻尾と耳が獣って、見慣れなかったってことは、そういうところに住んでいたってことであってるのかな?)
そんな中で、クリティアスは街では人間の姿形をしたままだった。熊の要素を持っている人物には会えなかった。他の動物の要素が見える者ばかりだったが、アルテアのような人間はあまり見かけなかった。
“獣人ばかりで、驚きましたか?”
「ん~、人間が一定数以上はいるのかなと思っていたんですけど。人間の方が少ないんですね」
“人間は王都に多く住んでいますよ。この森の近くには、今はあまり住んではいません”
「王都?」
そこから、王都のことを森の主や街でアルテアは色々聞くことになった。それでも、アルテアは王都に行く気にはならなかった。王都に憧れも、持っていなかった。
「……美味いな」
「でしょ? 香辛料があると違うのよ」
「……」
街で、色々と買ったもので美味しいものを色々作った。クリティアスは、それに驚いていた。
アルテアが、そこまで料理ができるとは思わなかったようだ。
(ここの人たちの味付けも、私が知っているものが多かったから、クリティアスさんも、そういう味付けを美味しいと思ってくれて良かったわ。味付けの好みが違っていたら、大変だったもの)
アルテアは、そんなことを思ってしまった。料理が得意なのはわかった。
問題はお菓子の方だ。ユグドラシルにそのことで、色々と尋ねた。
「それで、お菓子を作ってみようと思うのですが……」
“何か必要なものが手に入りませんでしたか?”
「あー、いえ、作りたいものの材料は手に入ったんですが、その、妖精の好みに似ている人に知り合いって居ますか?」
“……というと?”
「試作品を食べてもらって感想を聞きたいんです」
ユグドラシルは、何でもないように言った。
“妖精の好みを調査しつつ定期的にお菓子とあの花畑での物と物々交換してみるのは、どうですか? 長らく行き来がない状態です。完璧に妖精の好みに合わせるのは難しいはずです”
「あー、なら、前の記憶があやふやで感覚でお菓子を作ってるので、味見してほしいのですけど、お菓子好きな人を知りませんか?」
“クリティアスは?”
「甘い物は、そんなに好きではなさそうです」
妖精は、生焼けでもなければ、焦げていなければ、大丈夫だとユグドラシルはアルテアに言った。
(何だろう。食べれるお菓子なら、何でもいいみたいに聞こえる。……なんか、一番を決めるのに期待できなさそうに思うのは、私だけ?)
それか、材料を買いに行くまでにちょっと時間がかかっているのもあって、入れるかを知りたい感じがしていた。
(あー、でも、そんなこと言っても入れなかったら意味ないのよね。私としては、あまりどころか。全く自信ないのよね)
だが、ユグドラシルはそんなアルテアの心情を知ってか、知らずか。
“なるようになりますよ”
「……」
にこにことした声音で、そう返されただけだったことにアルテアは苦笑せずにはいられなかった。
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