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第1章

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そんなことがあったが、クリティアスがわけてもらうことになった蜂蜜のことで、しばらくしてからアルテアも女王蜂のところに同行することになった。


「え? でも、蜂蜜をもらうのはクリティアスさんでしょ?」
「この家は、お前がもらっただろ。そこに住まわせてもらってる。蜂蜜も、わけるのは当然だ」
「でも、森の見回りとかの仕事で、木の実やら食べれるものをもらってるわ」
「あれの大半は、あそこに来てる動物たちの持ち寄りだ。それを俺にもわけてくれてるんだ。これだってわけてもいいはずだ」
「……」


そんなことを言われてアルテアは、目をパチクリとさせた。何を言ってもわけることに変わりはないようだ。


(あれって、彼に家はなくてもいいってことではなかったと思うけどな。家の中にちゃんとクリティアスさん用の部屋があったし、食器やら他のも、私とは別にちゃんと置いてあったし。動物たちも、多めに持って来てくれてるのは明らかなんだけどな)


だが、クリティアスが譲ることはなかったため、アルテアも一緒に女王蜂たちのところに行くことになった。森の中の行ったことないところに行けるのが楽しくて仕方がなかった。


(本当に広いところね。広いというか。……人間の私には広すぎるわ)


1箇所、2箇所とよかったが、折り返した辺りからきつかった。


(水やりもきつかったけど、ここまでは歩かなかったわ)


「大丈夫か?」
「何とか。……でも、私1人じゃ迷子になりそう」
「そんなことにはならない」
「どうして?」
「そうなったら、木にでも聞けばいい」
「この辺の木は静かで忘れてたわ」


立派な木たちが立っていたが、静かだった。アルテアは、古株の木々が話せなくなったことを知らないため、クリティアスもお喋りな奴を見つければ、どうにでもなると誤魔化した。


「それも、そうね」
「お前が困った時に動物を呼べるようにした方が良さそうだな」
「あ、動物たちも、この辺ではあまり見かけないのね」


きょろきょろしても動物が見当たらなかった。さっきまで動物がいたと思ったが、いつの間にかいなくなっていた。


(……変だな。そんなのわかりきってるのに。何で忘れてたんだろ……? 聞けばいいだけなのに)


迷子になっても、迷子のままでもいいのではないかと思ってしまったが、クリティアスの言葉にハッとした。

変な気分になった辺りで、初めての場所を通ったが、アルテアはその景色をじっくり見たかったが、その時間はあまりなかった。


(残念。女王蜂たちの蜂の巣って、森の四方にあるのね。縄張り争いが凄そうだけど、これだけ広いんだもの。四方なら、わざわざ相手の縄張りに入ったりしないわよね。ちゃんと話し合えるとこもあるのね。……最初から、そこで会えばよかったのに)


アルテアは、そんなことを思って足を擦った。四方の蜂の巣まで、蜂蜜を食べ歩くことになったのだ。そのせいで、彼女はかなりくたびれてしまっていた。最後の方は、かなり疲れた顔を隠せずになっていたが、蜂蜜の感想を聞くことに蜂たちは気を取られていて、彼女の足の痛みについては蜂たちは気にも止めてはもらえなかった。……まぁ、アルテアとしてはよかったのだが。

その甲斐あって、蜂蜜を色んな女王蜂たちがわけてくれることになったが、どこが一番だったかを聞きたがり、話し合いの場に呼ばれることになったのだ。


(ここで、蜂蜜を食べたら足も筋肉痛になることなかったのに)


アルテアとしては、そんなことをつい考えてしまったが、一番がどこになるかで殺気立つ蜂たちは、かなり怖いものがあった。

少女とクリティアスの側でブンブンと羽音がする。


(これ、負けた蜂が一番になった蜂を襲ったりなんてことはないわよね……?)


蜂同士の喧嘩にならないかとアルテアは、そちらを心配していた。自分の心配なんてしてはいなかった。

その蜂の巣ごとの違いがあって、味についてクリティアスが感想を言えば女王蜂がその都度、感激していた。蜂たちもだ。


(この状況でも、クリティアスさんはブレないわね)


そんなことを思っているとアルテアも感想を求められた。


「あー、私は、そうだな」


味の違いを利用した料理やお菓子のことを話した。本当に合うものを考えていたので、その辺はスラスラと答えられた。

蜂たちは、それにも感激していた。そのため、一番は決まらずとも満足したようだ。

その代わりのようにそれぞれの蜂蜜を定期的にわけてくれるまでになった。クリティアスの味についての感想やアルテアの料理やお菓子に合いそうというのを聞いて、蜂たちの琴線に触れたようだ。

特にお菓子という単語の盛り上がり方が違っていたが、その理由はアルテアにも、クリティアスにもわからなかった。


(お菓子に反応するのは、どうしてかな? ここで、お菓子なんて作る人はいなさそうだけど……)


それまで以上に女王蜂たちの蜂蜜へのこだわりが強くなって、蜂たちの頑張りが伝わって来るほどになるのも、すぐのことだった。


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