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しおりを挟むナーシャルディーンは、ファティマの弟に色々と話した。もちろん、いきなり話をしたわけではない。
ファティマの弟は、姉が怪我をしたことになり、目を覚まさなくなって、国王から何があったかを聞くことになり、父が激怒して養子を撤回すると乗り込んで行くのを見送り、弟は怒りで腸が煮えくり返りそうなのを顔に出さずにできることをすべく動いていた。
姉が悲しむことは、放置できない。ラティーファを義姉として、誰よりも結婚式を楽しみにしているのを知っていた。
今回のことで、結婚が上手くいかなくなるのを察知して、ファティマがいたらすることをしようとしてナーシャルディーンの前に現れたのだ。
「それは、親戚全てをあたったのですか?」
「全てではないが」
「なら、全部をあたってみては?」
「だが、残っているのは、一番あり得ないところだ」
「……それ、婚約者からの贈り物では?」
「? そうだが」
「そのあり得ないところの方は、一番見る目がおありだと思いますけど」
「……」
ファティマの弟は、ナーシャルディーンにそんなことを言った。
ナーシャルディーンは、怪訝な顔をしたが、すぐにハッとした顔をした。
そこから、ナーシャルディーンはラティーファの隣国の大叔母様に手紙を出した。その手紙には、ナーシャルディーンの大事にしているハンカチを添えた。
「これで、ラティーファの素晴らしさが伝われば、惜しくはない」
手放したくないが、ラティーファのためだと思ってそれを添えた。ナーシャルディーンは身を切られるような思いをすることになったが、それでラティーファを養子にしたいと言って駆けつけてくれたのだ。
「大叔母様……?」
「あなたが、ラティーファね! 思っていたよりも何倍も美しくて可愛いらしいわ。それになんて素晴らしい手をしているのかしら。この刺繍を刺せるほどの令嬢をぜひ、私の義娘になってちょうだい」
「え?! 私を? それにそのハンカチは……」
「素敵な婚約者ね。私のところに素敵な手紙とこれを添えてくれたのよ。……これを側から離すだけでも、身を引き裂かれる思いがしたことでしょうね」
「っ、」
「私のところから、この方のところに嫁ぐといいわ。この国の公爵家も、他の者たちも、私の義娘を無下にはできなくなる。旦那様の了解も得て来たわ。このまま、あなたの実家に行って、話をつけましょう」
「っ、ありがとうございます」
ラティーファは、それを聞いて、諦めずに済むことにホッとしつつ、その刺繍を認めてくれたことにも涙した。
更には、ファティマの弟がナーシャルディーンに助言してくれたことで、ラティーファはナーシャルディーンのところに嫁げることになったのだ。
結婚式は盛大に行われることになったが、そこにファティマの姿はなかった。
ラティーファの実家は、父親がヤズィードと同じく、王妃に騙されたと触れ回ってことを大きくしすぎて、爵位を返上するまでになってしまったのだ。
ラティーファの養子先が見つかる頃には、ファティマの養子も解消されていた。
ファティマの代わりのように弟が結婚式にいたが、場違いにならないようにしていても、その瞳は悲しみに暮れていた。
「姉さん。他に何をしたらいい?」
弟は、姉が喜びそうなことはしていたが、自分のしたいことが、すっかりわからなくなっていた。
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