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しおりを挟むヤズィードに叩かれた後というか。その後、倒れた先にあった花瓶に頭をぶつけたファティマは、眠り続けることになった。
侍医は、大騒ぎを聞きつけて、またかと駆けつければ、血を流して倒れるファティマがついに大事になったと思った。
「彼女の様子は?」
「殴られた傷は、大したことはありませんが、花瓶が頭に落ちた怪我のせいで、未だに眠ったままです。いつお目覚めになられるかは、わかりません」
「そうか」
「……」
「お前の言う通りだな」
「……」
「ファティマならば、あしらえると彼女に何もかも任せすぎた」
「……それを私におっしゃって何と言ってほしいのですか?」
「それは……」
「ファティマ様の治療は、全力で行います。怪我をなさっておられるなら、王女の治療もできます。ですが、私は精神的な治療は専門外です。王女の心を治療なさるなら、適任者を探してください」
「……わかった」
国王は、ファティマと王女のことを気にかけていた。でも、同時に王子たちのしたいようにもさせていた。
どちらかが、ファティマと婚約すればいいと思っていた。王妃に八つに裂く気かと言いながらも、ファティマが決めれば穏便におさまるのではないかと思っていたのだ。
そうなれば、義理の娘になるのだ。アイシャも、母親ではなくとも、義理の姉になるのを喜ぶと思っていたのだ。
だが、そのせいで、ファティマの周りは散々なことになっていて、その矛先がアイシャにまで向いているとは思わなかった。
更には、ファティマをどうにかすれば、王子たちと婚約できると思う者が多くいて、アイシャはその荷物のように思う連中からも、ファティマがアイシャを守っていたことも知らなかったのだ。
侍医は、意地悪いことばかりされて怪我をしているのにそうとは言わないファティマに気づいていた。
だから、国王に伝えていたのだが、本人が何も言わないのもあり、まだ大したことではないと思っていたのだ。
それが、今回の怪我のみならず、ファティマが散々されてきた嫌がらせの怪我を見ることになり、それに絶句した。
「……なんてことだ」
自分が命じたままに王女の世話係に専念していた10歳の令嬢は、自分よりも遥かに大人だったことを思い知ることになろうとは思いもしなかった。
謝罪したくとも、ファティマは目を覚まさず、ましてやこうなったのは息子たちにも原因があると国王は言えなかった。
それを放置したことで、同罪だと思いつつ、それでも王子たちは自分の落ち度に気づいていないのだ。
これでは、ファティマどころか。ファティマに似た令嬢にすら相応しい王子とは言えない。そうでない者ばかりが寄って来るのも、そういうことなのだ。
それは、国王も同じだと思ってしまった。王妃が、今回のことをしたのもそうだが、側室で騒ぐのも、国王に相応しい程度の者しか騒いでいないのだ。
それで、息子たちだけを怒れるはずがなかった。
アイシャは、あれから呆然自失となったままで、泣き叫ぶこともせず、反応が薄いままとなり、王子たちは自分たちがしたことで、こんなことになったとは気づきもせずに妹を気にかけていたが、母を求めていた時よりも何の反応も見せなくなっていた。
もう、求めても無駄なようになってしまって見えることが国王は気がかりでならなかった。
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