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しおりを挟む「……」
「ん? これは、釣書だよ」
「アイシャには、つまらないと思うよ」
「……」
じっと、釣書を見つめる姿に兄たちは、自分たちもつまらないと言わんばかりの顔をしていた。
それを国王は見ていた。何やら珍しく興味があるように見えたのだ。
「アイシャ。写真が好きなのか?」
「え?」
「そうなの?」
「……」
国王は抱っこして、王女に釣書を見せ始めた。いくつか、見せているとその一つにくいついたのだ。
「ママ!」
「……は?」
「ママ!」
「……」
国王でも、わけがわからず、間抜けな声を出してしまった。王女が指差す先に10歳ほどの少女がいた。
国王は、末っ子の言いたいことが何なのかを把握する前に珍しく混乱して、頭の中は大変なことになっていた。
「アイシャの母上……?」
「いや、全然似てないよ。……この子の方が、可愛いもん」
「確かに」
双子の兄たちは、似ても似つかない令嬢を見て眉を顰めていたが、可愛いと思ったようだ。それまで、まじまじと釣書を見ていなかったが、妹の態度でやっとちゃんと見たようだ。
王女は、ママ!と言って、きゃっきゃっと喜んでいた。それは、久しぶりどころか。初めて聞く笑い声だった。
国王は、笑えたのかと驚いていると……。
「アイシャ。それは、母上じゃないよ」
「そうだよ。君の母上は、こっちの令嬢に似てるよ」
別の釣書を見せたが、王女は見向きもしなかった。
それどころか。ママと呼ぶ令嬢の釣書を取り上げると泣き叫んだのだ。
「ママ!!」
「……」
「王女様。これは、お母様ではありませんよ」
「ママ!」
乳母が話しかけて、それを遠くにやろうとするとろくに食事をしていない身体で、立ち上がって乳母の元に歩いたのだ。
「取り上げるな」
「ですが」
乳母は、よろよろと歩く王女を支えるでもなく、取り上げることばかりに躍起になっていた。
「アイシャ」
「……」
「それを持っていていいから、食事をしろ」
国王の言葉に目をパチクリさせた。
「きちんと食べろ」
「……」
「できるな?」
そんなことを言っても理解できないのではないかと思われたが、王女は小さくだが、しっかりと頷いたのを国王は見逃さなかった。
国王は、スープを用意して食べさせると嫌がることなく食べたので乳母たちも驚いていた。
「いい子だ」
国王が頭を撫でるとアイシャは、きょとんとして笑顔となった。
「っ、」
「狡いです!」
「ん?」
「アイシャ。私にも、笑ってみせてよ」
「……」
王女は、兄の言葉に笑顔が引っ込んで無表情になった。
「あれ?」
「そんなこと言うからだぞ」
「笑うのは見せるためじゃないだろ」
「あー、そうか。そんな、あざとい女の子に妹がなったら……」
「世の男どもを釘付けにするな」
それからは、時間を見つけては国王や兄たちが、アイシャに食事をさせていた。
その傍らには、釣書の写真が飾られていた。
「あの令嬢を呼べ」
「個人的にお呼びになるのは……」
「わかっている。王子たちの婚約者候補達と一緒に呼べ」
「畏まりました」
国王は、似ても似つかない令嬢を母親と呼ぶことに何かあると思っていたが、それが何なのかまではわからなかった。
ただ、何かが変わりそうだと思って、期待する気持ちとそうならない時に落胆しないようにしていた。
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