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しおりを挟む(この人、子供より子供っぽいのね。そんなところを片割れにそっくり。同じ顔をしているから、余計に腹が立つのよね。そんな顔をしたのをあの人に見られるのが、一番嫌だった。……あれ? あの人って、誰のことだっけ??)
ファティマは前世では、自己中な夫と義母といた。あの人と呼んで、双子の片割れがあれこれする顔を見られて嫌になる人は、息子くらいだった。
でも、姉夫妻とは中々忙しくて気軽に会えることはなかった。いつも、すれ違っていた。
ファティマは散々前世の片割れと思っていたのに違和感を覚えていた。姉のことを結婚前のある時期まで、悪く言う人はいなかった。そして逆に妹であるファティマの前世の時は結婚してから悪く言われなくなったのだ。
(変だな。また、おかしな違和感がする。私は、私のことを他人事のように言っていることになってる。でも、何で……?)
そんなことを思うのかがわからなかった。妹の名前で結婚したが、中身は姉だったかのように思ってしまうのだ。
(姉の旦那が、私の夫より凄く素敵な人だと思ったせいかな? 羨ましくなって、そんなことを私は思ったのだろうか。……でも、前世は前世。あちらでは死んだから、ここに転生しているのだもの。今は、謝罪1つまともにできない母のことよ)
弟妹たちですら、きちんと謝罪できる。そういう風に教えてきた。
そして、他のことも。恥をかかないようにと教えた。
「おとぅしゃ?」
「ん?」
「はじめまちて」
「っ、!?」
「よろちく」
(きちんと教えすぎたかな……?)
子供に初めましてと言われる父親の顔は衝撃的だったが、子供たちに父親だと認めてもらえたことに嬉しいやら、初めましてに悲しいやらで、泣いていた。
(まぁ、うん。これなら、大丈夫そうね)
「姉さん。心配しないでください。いざとなったら、教えてもらった食べられる雑草で飢えをしのぎますから」
「っ、ざ、雑草?!」
父は、それに目をひん剥いた。
ファティマは、弟の暴露に頭を抱えたくなった。
(しまった!? それを弟は覚えてるんだった)
ファティマは、遠い目をした。
「……」
「ファティマ?! どういうことだ!」
弟を見れば、にっこりとしていた。笑っているけど、目が怒っていた。姉にはわかる。この顔は……。
(相当怒っている顔だわ)
「えっと……」
「姉さんが、繕いの仕事につくまで、お腹が空きすぎて食べてたんです。姉さんが、自分が実験台になって食べれるのを探してくれたおかげで、飢えを凌げてました。服も、誕生日に新調してくれてるから、どうにかなっていたんです」
「ファティマ。すまん! そこまでだったとは……」
父親は、妻が謝罪すら言葉だけなのに気づいていて、2人で土下座までして謝ってくれた。着飾る方にお金を注ぎ込んでいたのは、母がほとんどだったようだ。
「もう、子供を産んだら実家に帰ってくれ!」
「っ、そんな!? 話が違います!!」
「お前が、子供たちにしていたことを聞けば聞くほど、ここに置いておいた方が悪影響でしかない!」
「っ、」
そんな話となり、さらなる夫婦喧嘩になった。そこまでにした弟はにっこりと姉に笑ってみせた。
(確かに母親としては、認めたくないわよね)
ファティマが母に同情することはなかった。
(やれるもんなら、やってみればいいと思ったけど。計画もなく、ポンポンと産むんだもの。……産ませる方も、どうかと思うけど。育児の苦労をこれから数十年味わうがいいとも言ってられないわよね。それに付き合わされるのは、弟妹たちなんだもの)
これなら、いない方がいい。それに父も気づいたのだろう。弟は、はじめから母をいらない人だと言いたかったのだ。
(そのために私の過去を話すことはないのに)
弟妹たちの今後も、何とかなることになって優秀なベビーシッターを父はすぐに見つけて来た。
これまで通りとは言え、ファティマがいなくなれば大変なことになると知って、ファティマは養子先に行くのを先延ばしにしてもくれた。
ベビーシッターは、本当に優秀な人を短期間で見つけて来てくれたのにファティマは……。
(仕事はできるってことね。父親業だけ、なんで、あんなにポンコツなんだか。……させなかった私が悪いのか。父親にさせるのも、長女の仕事なの?)
チラッと見れば、弟は満足そうにしていた。あれは、合格だと父を見ている顔だ。不合格になれば、ファティマのように凄い目を向けることになるだろうが、その顔や目にこの父が気づけるかは微妙なところだ。
「素晴らしいお子さんたちですね。これなら、私が1人でも大丈夫そうです」
「そうか。すまんが、数ヶ月中にはまた増えるんだ」
ベビーシッターの言葉に嬉しそうにしつつ、父は補足していた。
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