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芽衣子の足の捻挫は、順調に治ることになったかと言うとそうではなかった。10日ほどと言っていたが、それ以上かかった。

図書館には、天唯が行ってくれて、芽衣子は歯抜けになってもいいやと再び予約をした。その予約をし直すだけでも、芽衣子は珍しく苛ついてしまったが、歯抜けにして読まないということはしたくなかったのだから仕方がない。

でも、それも終わったことだ。今は、それよりも今起きたばかりのことだ。


「芽衣子」
「何も言わないで」
「……」
「……泣きたい」
「それは、あとにしろ。ほら」


天唯は、またも芽衣子の側で背を向けてしゃがんだ。芽衣子は、デジャヴだと思いながら、おんぶしてもらって出て来たところに逆戻りした。

やっと足のギブスが取れたと思ったら、もう一方の足を捻挫してしまったのだ。

しかも、今度は整形外科で片足のギブスが外れたことに喜んで、外に出た途端に転んで捻挫したため、いたたまれなさは半端なかった。

芽衣子の姿を見て、受付の人は察してくれたようだ。

もう一度、診察券を出すことになって、お待ちくださいと言われて頷くしかなかった。


「浅見さん、何十年とこの仕事してるが、こんなに早く戻って来た患者は初めてだ」
「私も、先生にこんなに早く会うことになるとは思いませんでした」
「そのつもりだったら困る。とりあえず、X線には折れた形跡もヒビもない。前と一緒だな。腫れが酷くなりそうだ。痛み止めも出しておく。今回も、固定しよう」
「それって、まさか」
「ギブスだ」


芽衣子は、打ちひしがれた顔をした。

診察室から出た芽衣子の姿を見て、天唯は前と同じような顔をすることはなかった。


「同じか?」
「……」


芽衣子は頷いた。天唯の目を見れずに頷くのが精一杯だった。


「おばさんには連絡した。帰り厳しいなら、タクシーで帰って来いって」
「……」
「芽衣子。痛いのか?」
「……心が痛い。帰ったら、絶対笑われる」


(前回も笑われたのに。病院出てすぐに同じことやるなんて、自分でも信じられない)


天唯は、それを聞いて、今更だろうと言わんばかりの顔をしたが、何も言わなかった。色々言われた方がマシだったかも知れない。


「天唯。迷惑ばっかりかけて、ごめん」
「いい。慣れてる」
「そんなこと慣れなくていいよ」
「別に迷惑だとは思ってない。嫌なら、嫌だと言ってる」


芽衣子が再びギブスをして松葉杖をついて戻ったことに弟妹たちは姉を笑っていて、両親も似たりよったりの反応をしたが、天唯だけが芽衣子を笑うことはなかった。


「芽衣子」
「ん?」
「……その怪我、俺のためじゃないよな?」
「?」
「いや、聞かなかったことにしてくれ」


ここから、天唯は芽衣子の家に再びお世話になることになり、弟妹たちは大喜びしていた。

天唯は、怪我ばかりよくする芽衣子にこの家に留めるためにしているのかと聞いたりもしたが、芽衣子はきょとんとしただけだったから、違うとわかった。

ただ、怪我をする頻度が増えていくのに天唯は時折、不安そうにしていた。でも、芽衣子はいつも通りでいて、不安に思うことがなかったとは言えないが、怪我が絶えなくなっていくたび、自分のドジっぷりが上がっていっているような気がしていた。


(息をするようにドジしている。凄く嫌だな。……私、無意識に怪我してるのかな? 怪我をして、幼なじみを繋ぎ止めようとしているとか? そんなわけ、ないわよね)


芽衣子が、良く怪我していたのは、彼女のドジが原因ではなかったことがわかったのは、数年後のことだった。

高校を卒業して、2人が大学生になった頃にわかったが、透哉とは学年が上がると別のクラスになって、芽衣子と天唯が同じクラスになった。周りは幼なじみというより、恋人同士を更に飛び越えて、夫婦のように見えていたようだが、2人は通常運転のまま、変わることはなかった。


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