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予約した本を借りられたなら、次の予約をしておこうと夕食を食べてから、部屋に戻って図書館のホームページを見ていたら、芽衣子は本を借りられてはいない状態にあった。
「え? 何で??」
「芽衣子。風呂空いたぞ」
「天唯」
「どうした?」
「本を借りられてない」
「日にち間違えてたのか?」
芽衣子の部屋に入って来て、天唯はそんなことを言った。
「間違えてないわ。どうしたんだろ?」
「さぁな。それより、風呂入れ」
「……」
「芽衣子。シャワーだ」
「……わかった」
「ギブスは濡らすなよ」
「わかってる」
芽衣子の頭の中は、次に新しく予約し直して、数週間待ちをするのなら、歯抜けで読むか。きっちり読むかで悩んでいた。
(一巻丸々なら、予約し直した方が正解かも。……最悪すぎる)
そう思いながら芽衣子は、ショックを隠しきれない顔をして部屋を出て行った
天唯は自分が行けばよかったと思って、ホームページを見ていた。
「借りたのに返したみたいだな」
天唯は、パソコンを操作して、あることに気づいてしまった。借りたのにすぐ返したことになっていることに気づいて眉を顰めずにはいられなかった。
「ただ、借りると思ったんだがな。予約を受け取って、すぐに返却するって、新手の嫌がらせか? それか、何の本なのかを知りたかった……?」
そこまで、推理しても芽衣子にはそれを伝えることはなかった。
「何にせよ。俺の嫌いなタイプなのに代わりはないな」
芽衣子がいなくなった部屋で、ぽつりと呟いた言葉を聞く者はいなかった。
次の日、透哉は何食わぬ顔で教室にやって来た。
「浅見さん、おはよう」
「おはよう。あの、諏訪くん」
「これ、昨日預かった図書館カード。それと借りようとしてた本のシリーズ全巻」
「……これ、もしかして、わざわざ買ったの?」
本屋で買った物を渡されて、芽衣子は何とも言えない顔をした。しかも、その本だけでなくて、シリーズもの全部だ。
「凄い人気で、何週間も待ってるんだろ?」
「えぇ、そうね。凄い人気だから、仕方がないと思ってる」
「でも、凄く好きなら、買って手元にあったら、何度も読み返せるだろ? よかったら、もらって」
「……」
芽衣子は、そのシリーズを図書館で借りるのを楽しみにしていた。でも、部屋に置いておきたい小説ではない。芽衣子が部屋に置くのは、海外で発売されている小説ばかりだ。
それは、天唯の父親が書いているものだ。そして、今回のは天唯の母親が書いているものだ。どちらも、人気の作家だ。
芽衣子は、どちらの作品も好きだ。でも、天唯の母親の作品を買う気になれないのには理由があった。
「浅見さん?」
「……ごめんなさい。これは、受け取れないわ」
「え? でも」
「私、小説は外国の物しか買わないし、部屋にも置かないことにしてるの。だから、ごめんなさい」
芽衣子は、その小説を受け取ることはしなかった。
(部屋に置いておくなんて、無理だわ。そもそも、全巻を買って来たのをタダで受け取るわけにもいかないでしょ)
それこそ、透哉は良かれと思ってしたのだが、やり過ぎていた。彼に一目惚れしたと思っていた芽衣子だが、この出来事で一気に幻滅することになった。一目惚れしたことすら、勘違いだったのではないかと言うほどだった。
もっとも、勘違いではない。頭をぶつけたことで、脳内でちょっとした変換がなされて、一目惚れをして恋をしたと思っていたに過ぎない。
もので釣ろうとする人間を芽衣子は知っていた。天唯の母親と芽衣子の父親だ。2人は、付き合っていたことがある。それを芽衣子と天唯だけが知っていた。今も続いているかはわからないし、その辺のことには興味ない。気持ち悪いとは思うが、それだけだ。
そして、天唯が芽衣子の父親は自分の息子だと思って可愛がっているのだが、実際は芽衣子の父とは血の繋がりはないことが、親子鑑定でわかっている。そして、それは天唯の父親と違うことも芽衣子たちは知っていたが、親たちは何も知らないままだ。
つまり、天唯の母親の不倫相手は他にもいるということだ。
それを知っている芽衣子と天唯は誰かにのことを言うことなく、沈黙していた。
図書館カードだけを返してもらった芽衣子は、いつも通りに授業を受けた。だが、芽衣子が透哉の方を見ることはなかった。
一目惚れをして、恋をした相手に一番されたくないことをされることになった芽衣子は、透哉とは挨拶しかすることはなくなったのは、この日の出来事があったからだ。
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