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しおりを挟む芽衣子は日に何度も嫌がらせのような目にあっていたが、嫌がらせをされている自覚が全くなかった。そのため、無邪気にしていた。
「すげぇ、あの嫌味に笑ってる」
「いや、あれは全く気づいてないんじゃないか?」
男子は、女子が芽衣子に嫌味なことを始めたことに気づいていて、どうなるのかとはらはらしたりしても、止めようとする者はいなかったが、芽衣子の天然っぷりに吹き出す者も少なくなかった。
「浅見さん、聞いてるの?」
「え? あ、うん。えっと、何だっけ?」
「……聞いてないんじゃない」
嫌味を言っていた女子ではなくて、他の女子がポツリと言った。それが聞こえた男子が吹き出していて、女子がそちらを睨んでいたが、芽衣子は全く気づいていなかった。
「ご、ごめん。ただ、その髪型、可愛いなと思って。自分でやるの?」
「え? そうだけど……」
「凄いね。とても、似合ってる」
嫌味を言って来ている女子にこの調子だったのだ。キラキラした目で、本当にそう思っているのが丸わかりで、褒められた方は満更でもない顔をしていた。
そんなことが続くことになり、クラスメイトの女子と芽衣子はすっかり仲良くなっていた。人はそれを絆されたという。
そして、芽衣子は仲良くなれたと思っているが、仲が悪かったとは思ってはいない。そこにも大きな問題があったが、思い悩むのは芽衣子ではなかった。
「女って、わかんねぇー」
「だな」
男子は、芽衣子が嫌味や無視されていて、大丈夫なのかと気が気ではなかったのだが、それも杞憂に終わった。それこそ、何度も言うが芽衣子はそのことに全く気づいていない。
「浅見さんて、憎めないよな」
「だな」
クラスの女子と楽しげに笑う中心に芽衣子がいた。その頃には、転校生のことで異常なまでに騒ぎ立てる女子はクラスにはいなくなっていた。
そのせいで、透哉に面と向かって色々言われた女子たち以外が芽衣子に嫌味を言ったり、嫌がらせをするのに戦意を喪失してしまったのも、その頃だった。
芽衣子の方は、そんなことになっていることにも全く気づくことなく、いつも通りになったことに喜んでいるばかりだった。
「芽衣子って、マイナスイオン発してるわよね」
「わかる。癒されるわ」
いつの間にやら芽衣子は、そんなことを彼女がいない時に友達に言われていた。本人は……。
(クラスの雰囲気が良くなった気がするけど、何があったんだろ? また、私がいない時に何かあったんだろうな。たまには、何があったのかを見てみたいな。いつも、私って間が悪いのよね)
そんなことを思っていて、それに自分が大きく関わっていることにも、目撃どころか。当事者になっていることにも気づいていなかった。
そんな一連のことを隣の席の透哉が見ていることにも気づいていなかった。どうやら、芽衣子は一目惚れをした相手だというのに隣で声をかけられさえしなければ、緊張しすぎることもなくなって、目を見つめられればドギマギするが、それ以外ではすっかり慣れてしまったように見えていた。
だが、実際のところは慣れたわけではなかった。
(あ、彼のこと、すっかり忘れてた!?)
隣にいることに緊張しなくなったわけではなくて、クラスの女子たちと仲良くなれて浮かれすぎていた芽衣子。自分の隣の席の透哉のことをすっかり忘れていただけだったが、そのことに気づいたのは本人と長年一緒にいた幼なじみが、そんなことではなかろうかとわかる程度でしかなかった。
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