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しおりを挟むあれから、編入を無事に終えた天音は、王子の婚約者として正式に発表された。
その挨拶だけでも天音は疲れたが、ようやく授業が始まったというのに今までにないほどの居心地の悪さをひしひしと感じていた。
「あの子が……?」
「庶民、丸出しね」
「きっと、一時的な気の迷いよ。物珍しくて、婚約者になったに違いないわ」
そんなことをこれみよがしに話す生徒たちに天音は、うんざりしていた。
「天音」
「王女殿下」
「堅苦しいのはなしって言っはずよ? 次は合同の授業だから、一緒に行きましょ。それとこっちが、私の婚約者の烏丸剛。お兄様の悪友よ」
「王女様、その紹介の仕方は酷くないか?」
「全然。剛こそ、その呼び方やめて」
「わかった。蓮加も、それやめてくれ。初めまして、天音嬢。烏丸剛です」
「初めまして、三觜天音です」
「ストップ。握手は駄目。天音が汚れるわ」
「は? 俺、雑菌扱いか?」
「お兄様に射殺されるわよ」
「そこまでなのかよ。わかった。まだ死にたくない。悪いな。気軽く握手なんてしようとして」
「い、いえ」
天音は、王女の言葉をそんな馬鹿なと思って聞いていた。それこそ、耳聡く聞いていた生徒たちもそうだったと思う。
でも、それが間違いではなかったことを思い知ることになることで、天音の扱いが変わることになるとは思いもしなかった。
(授業に全然ついていけてないわ。今日も、鈴に頼んで勉強を見てもらわないと)
本格的に天音つきの使用人となった彼女は、嫌な顔を1つせずに勉強を教えてくれている。
(これは、長期休暇も実家に帰らずに講習を受けないと駄目そうね)
実家からは、いつ帰って来れるかと再三知らせろと手紙が来ていた。それこそ、知らせたら親戚やら知り合いやらが天音に根掘り葉掘り聞く気でいるのがありありと伝わってきていて、天音はげんなりしていた。
(浮かれ過ぎなのよね。発表がなされるまでは、それでも大人しくしていたようだけど)
知れ渡ったことで、天音の両親は浮かれることが再開してしまったようだ。
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