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しおりを挟むアルフリーダは、温かい紅茶を飲んで落ち着いていた。エーヴェルトは、お茶どころか。もぐもぐとお菓子をたべていた。話しすぎてお腹が空いていたのもあるが、実家で出されるお菓子はエーヴェルトが食い尽くすのがほとんどで、美味しいものより量の多いものしかエーヴェルトの前に出なかった。
そのため、こうして美味しいものが出るのが嬉しくてお茶よりも、そっちに夢中になっていた。
「まぁ、そんなことはいいわ。終わったことだもの」
「そうだな」
アルフリーダは、エーヴェルトが食べたるのはいつものことだと思っていて気にもしていなかった。そう、アルフリーダには見慣れた光景でしかなかったが、アルフリーダの家の使用人たちはエーヴェルトが来ると多めに用意しているのだが、それすら1人で食い尽くした。
その姿を見ている使用人たちは、何とも言えない顔をしているが、そんなことを気にする2人ではなかった。そんなところもそっくりだった。
「それより、シーグリッドは誰と婚約しているの?」
アルフリーダは、ふと気になっていたことを口にした。何でもないように聞こえたが、物凄く気になっていた。
「従妹だろ? 知らないのか?」
「そんなに仲良くないのよ」
一方的にアルフリーダがライバル視しているが、シーグリッドの方が勝てないと思って色々としてくるかのようにエーヴェルトには言った。それどころか、アルフリーダの方と仲良くする気がない。逆にシーグリッドの方は、そんな風に思われているのも何となく知っていても、気にしていた。
アルフリーダが、それを知っていたら、そういう風に思わせたいのだろうと馬鹿にしていたことだろう。
エーヴェルトは、ケロッと答えた。知らないなんて言っても嘘になるため、何でもないとばかりに伝えた。
「シーグリッドは、王太子と婚約している」
「は?」
そこで初めてアルフリーダがシーグリッドの婚約者が王太子だと言うことを知ることになった。招待状の返事を勝手に送ったというのに、そこを本当に見ていなかったのだ。
「両親も、親戚も、とっくに招待状が来ていて、さっさと出席の返事をしてしまっていて、私は元婚約者だからシーグリッドに気を使わせるだけだと言われて欠席にさせられていたんだ」
食べ尽くしたエーヴェルトは、やるせなさそうにした。何かしら出て来ないだろうかと使用人を見るも、誰も目を合わせようとしないのにここも実家と同じかと肩を竦めた。
「……え? 待って。あなたのご両親も、親戚も、私たちの結婚式に来ないの?」
「あぁ、友達も、王太子たちの結婚式に出るそうだ」
「な、何、それ」
アルフリーダは、そこで結婚式場が格安でやらせてくれると言った意味がようやくわかって頭を抱えた。
しかも、アルフリーダは両親に招待状を見せることなく、勝手に欠席と出してしまったが、あれはシーグリッドの名前しか見ていなかったのだ。それを隣国の王族の結婚式に欠席すると送ったことに初めて気づいた。ようやく、物凄くまずいことをしたとアルフリーダは思い始めて顔色を悪くさせた。
シーグリッドに関することで、初めて顔色を悪くさせていた。これまでただの一度も、そんなことはなかった。初めてのことに腹ただしい気持ちより焦りが大きくなっていた。
だが、エーヴェルトはケロッとしていた。何なら、もう何もすることないとばかりにぼーっとしていた。
アルフリーダは、慌てて招待状の返事を見始めた。そんなものちゃんと見なくとも、ほとんどが出席するものと思っていたのだ。何ともおめでたい頭をしていた。でも、先ほどの会話で、おめでたいままではいられなくなっていた。
「嘘でしょ。今まで戻って来たの全部が、欠席じゃない」
速達で送って速達で帰って来るようにしてあるが、これでは参加してくれる人などいないのではなかろうか。
従妹が結婚する相手なんて、大した子息じゃないと馬鹿にしていたアルフリーダ。
まずい、まずいと思っていたが、次第に自分がやらかしたのにそれすら、シーグリッドのせいだと思い始めていた。いつも、そうだ。何もしていないシーグリッドのせいにしてアルフリーダは生きてきた。勝手にライバル視もしてきた。今回も、シーグリッドのせいにしようとしていたが、そんなことが上手くいくはずがなかった。今回のことが一番シーグリッドのせいにしたらまずいことにも気づいていなかった。
そんなことをしていたところにアルフリーダの両親が現れた。エーヴェルトは、先程までと打って変わって、ぼーっとしていたのを切り替えて、それなりに見られる子息となっていた。
両親にアルフリーダは物凄く叱られ、エーヴェルトもそれなりに色々言われたのをあまりよく聞かずに神妙な顔で聞き流した。
そして、結婚式を延期するように言ったところで、エーヴェルトが……。
「まぁ、わざとではなくて、その日がいい日だと思って、アルフリーダは選んだだけであって何も延期することないと思いますよ」
さも、婚約者は悪気がなく選んだだけとエーヴェルトは言った。どこをどう切り取っても悪意だらけで、安くできることにもつられているが、それを何でもないかのようにした。
「だが」
「別に王族が結婚する日に結婚式をあげちゃいけないってわけではないでしょ。招待客が参加できなくなるだけじゃないですか」
「エーヴェルト様」
アルフリーダは、婚約者がそんな風に言ってくれているのに感激した顔をしていた。
「祝福してくれる人がたくさんほしいなら、延期してもいいけど、集まったからって心から祝福してくれているかなんて本人にしかわからないと思いますよ」
「……それは、そうかも知れないが」
「私としては、用事もないのに元婚約者の結婚式だからと遠慮するように言われた手前、他に用事があった方がぶっちゃけ有り難いんですよね。断ったのを色々遠慮したせいに思われるより、自分の結婚式のためって方が、あちらも気兼ねいらないでしょうし」
エーヴェルトがそんなことを言い、アルフリーダの両親も何とも言えない顔をした。
さも、まともなことを言っているかのようにしていたが、エーヴェルトはさっさと結婚したい事情があったりする。
それをアルフリーダも、彼女の両親も、全く気づいていなかった。
「君も、夕食を食べて行くといい」
「いいんですか?」
「構わない」
「ありがとうございます」
宿の食事の量では物足りないエーヴェルトは、義父となる人の申し出に内心ガッツポーズをしていた。
使用人たちは、エーヴェルトが夕食を一緒に取ることを厨房に急ぎ知らせに走った。
アルフリーダの両親は、それでも遠慮して食べているエーヴェルトの食べっぷりに驚いていたが、アルフリーダは見慣れた光景になっているのとそれどころではなくなっていて、異常さに何か思う余裕はなかった。
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