25 / 35
第1章
2一8
しおりを挟むフェリシアの婚約者は、シプリアンという名前のデュドネの王太子だった。
二人とも、幼い頃から容姿端麗で、成長するにつれて美男美女となっていた。そんな二人は、幼い頃に婚約したこともあり、とても仲が良くて周りからは理想そのものだとよく言われていた。
「本当にお似合いよね」
「本当ね。容姿がいいと得するわよね。聖女の先祖がいても、王太子の婚約者になれるんだもの」
「聖女なんて、おとぎ話でしょ」
「あら、フェリシア様は聖女がお嫌いだと聞いたわよ?」
「ご自分の先祖を悪く言うなんて、最低な子孫がいたものだわ」
「でも、仕方がないわよ。聖女の子孫だとわかったら、私だって他人のふりをしている」
そんな風に話す令嬢たちの楽しそうな声が聞こえてきた。
「気にすることはない」
「王太子殿下」
「君は、君だ。私は、君が聖女の末裔だから婚約者に選んだわけではない。そんなこと関係なく、君だから選んだんだ」
「……」
周りが色々と言っていようとも、少なくとも王太子から聖女のことを悪く言う言葉をフェリシアは一度も聞いたことがなかった。
(口にしないだけだとしたら、私の方がボロクソに聖女のことを嫌っていたのを知らないのよね)
「フェリシア? どうかしたか?」
「いいえ。何でもありません」
フェリシアとて、本音と建前を公爵家の令嬢として使い分けてきているのだ。王太子が使い分けていても仕方がないのだが、それでも心の中ですら思ってほしくはないと身勝手にもフェリシアは思っていた。
そんなことを思うたび、ついつい王太子を見つめてしまっていて、そのたびシプリアンが目ざとく気づいてくれて声をかけてくれたが、その理由を口にしたことはなかった。
幼なじみが遠くに行ってしまってから、フェリシアは益々王太子と距離を縮めることになったが、そんなフェリシアを不思議そうにしながらも、追求することもなかった。本当にただ見ているだけだと思われていたのか。はたまた、聞き出したところで面倒そうだと思っていたのかは、フェリシアにはわからない。
だが、この出来事をとあることがあってから思い返してみると本心はフェリシアが見る目がないと思っていた以上に酷かったのかも知れないが、この時のフェリシアはそんなことに全く気づいてはいなかった。
(殿下の隣に立ち続けるに相応しい女性になりたいものだわ。そう思いながら、幼なじみのアルセーヌに会いたくなってしまうのは、どうしてなのかしらね。……病弱な幼なじみが心配でならないからかしら。祈ることしかできないなんて、変な気分だわ。それに誤解していたとはいえ、聖女のことを良く知りもせずに嫌っていたものだわ。アルセーヌが、自分の側にいる時だけは悪く思うことすらしないでくれって、あの約束が心に響くは)
そんなことを思っていた。いてたたまれなくなったフェリシアは、不思議な夢の話を手紙にして幼なじみに送っていた。
他の誰もまともにとりあってくれずとも、アルセーヌだけはスルーしないと思ったのだ。
「そんなことしても、許されることではないのに」
そう思いながらも、フェリシアは聖女の話とどの国でも残っていない聖女を追いかけて来た男性のことも書いていた。
聖女となった最愛の人を取り戻すためにやってきて、彼女に再会することなく死んだのだ。だから、この世界が一層のこと滅んでしまえばいいと思わずにはいられないことをフェリシアは書いていた。
今は聖女が生まれ変わっているなら、お会いしたい気持ちでいっぱいだと書き記した。それは、フェリシアの本心だった。
(こんなこと書いて送ってもアルセーヌが困るだけなのに。何やってるんだか)
そう思いながらも、隣国に行ってしまった幼なじみに手紙を送っていた。
それこそ、幼なじみでなければ、フェリシアのこの行動を悪く取っていただろうが、アルセーヌがそう捉えることはなかった。
31
お気に入りに追加
282
あなたにおすすめの小説
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
博愛主義と言えば聞こえはいいですが、あなたのはただの浮気性です。
木山楽斗
恋愛
「僕はさ、博愛主義者なんだよ」
「……はあ?」
夫であるジグルドが浮気をしていることを把握したアルリナは、彼にそのことを問い詰めた。
するとジグルドは、訳のわからないことを言い出した。
彼は自らを博愛主義者と称し、故に浮気も仕方ないことだと主張してきたのである。
当然のことながら、アルリナはそんな彼の主張を受け入れなかった。
彼女はジグルドに離婚を言い渡し、彼の元から去ったのである。
その後アルリナは、ジグルドの様々な悪行を知ることになった。
そしてジグルドは、その報いを受けることになったのである。
ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません
詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編の予定&完結まで書いてから投稿予定でしたがコ⚪︎ナで書ききれませんでした。
苦手なのですが出来るだけ端折って(?)早々に決着というか完結の予定です。
ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。
周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。
見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。
脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。
「マリーローズ?」
そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。
目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。
だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。
日本で私は社畜だった。
暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。
あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。
「ふざけんな___!!!」
と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
離婚してもよろしいですが、後悔するのはあなたの方ですよ?
hana
恋愛
「悪いけど、離婚してくれ」
驚くほどにあっさりとその言葉は告げられた。
公爵令息のバルシュと結婚して二年、よく晴れた朝の出来事だった。
妹に婚約者を取られ婚約破棄されましたが、両親に愛されているので大丈夫です
狂乱の傀儡師
恋愛
ミレーナ・クレイは、ある日婚約者のアンドレイが妹と関係を持っているところを目撃してしまう。悪びれもせず婚約破棄を切り出すアンドレイと、私のものを全部奪っていってしまう妹にはもううんざりです。特に妹は、私から両親の愛さえも――。この時は、そう思っていました。しかし、事態は思わぬ方向に?
浮気疑惑の後始末
しゃーりん
恋愛
ある夜会で婚約者の浮気を目撃してしまったココミア。
ココミアの涙を拭ってくれたのは、友人ビアンカの婚約者デント。
その姿を浮気だとビアンカに誤解され、大声で非難されてしまう。
ココミアの婚約だけでなくビアンカの婚約まで解消になり、そのことをココミアのせいだとビアンカが言いふらしたためにココミアは学園で孤立することに。
しかし、正しい情報を知った令嬢たちがココミアの味方をしたためにビアンカの立場が悪くなっていく。
婚約者がいなくなったココミアとデントが騒動の後始末で婚約するというお話です。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる