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第1章

2一5

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ここ最近は聖女のことを信仰している国でも、他所の国でも特に困ったことが全く起こっていないこともあり、聖女のことを召喚することは、これから百年以上はなさそうだと思われていて、どこの国でもみんなが平穏に暮らしていた。

平穏が続いていることは、とても良いことだ。これも、聖女が救ってくれたからなのではないかとデュドネ以外の国の者たちは思っていた。

そうでなければ、召喚までしたあとで何事もなく、過ごせるなんてことはないはずだ。どの国も、大して困ることがない状態のまま、聖女が召喚されてから何一つとして起こってはいない。

だからこそ、過去に現れた聖女に感謝しつつ、これから困った時があっても、自分たちでどうにかすると思っている国は1つしかなかった。

フェリシアは、普通なら喜んでいいところのはずだが、素直には喜べなかったのだ。感謝しつつ、また何かあった時のために感謝する国が圧倒的に多かったのだ。


(……感謝し続ける国があることを嬉しく思ってもいいのだろうけど、また何かあったら召喚した聖女に丸投げする気満々なのは、腹が立ってならないわ。そんな風にするのなら、もっと聖女のことを褒めちぎっておけばいいのに。……どうして、私はこんな風に思うんだろう? 私の血肉が聖女を受け付けないのは、聖女が許せないから……? それとも、聖女のことを蔑ろにし続ける人たちが、幸せになっていることが許せないから? ……もう、何があっても聖女のことになると気に入らないと条件反射のように思ってしまうわ。どこまで、嫌な性格してるんだか)


フェリシアにはわけがわからなくなっていた。

フェリシアは、聖女に感謝を捧げ続ける国が存在していることも、大きくなってからしか知らなかったが、そんな国が次は異世界から聖女を召喚せずに自力で、どうにかしようとしていることを知って、その国のことを馬鹿にすることが、どうしてもできなかった。

心の中ですら、その国を愚弄することもできなかった。会ったこともない聖女に本当にいたかもわからないはずなのに感謝し続け国に胸が締め付けられるほど狂しく愛おしいと思う感情が沸き起こってしまった自分にフェリシアは泣いてしまった。

その国だけが、自分たちの住まう世界を自力でどうにかしようとしていたのだ。

フェリシアが物心ついた頃には、大人たちがしているのを見聞きしていたが、聖女なんて夢幻のような存在としか思っていない人たちしか周りにはいなかった。

でも、そんな風に思う前にフェリシアは、誰に教わることなく、そう思っていたから大人たちのせいで、フェリシアはそう思うようになったわけではなかった。

召喚したと語られているのも、おとぎ話かのようにしていて、人を異世界から召喚することができると思っている者自体が少なかったのだ。

もっとも、召喚しなければ聖女が現れないわけではない。ただ、困った時以外、特に必要ない存在のようにデュドネではされていて、聖女かどうかをこの国で調べることをそもそもしないほど、聖女に対して偏見しかない国だった。

聖女が現れても、扱いが面倒だと思っているようで、そんな国に生まれたフェリシアは聖女のことで馬鹿にした言葉を聞くたび、その通りだとしか思わなかったし、それ以上に思うことはなかった。それをおかしいと思ってすらいなかったが、段々とおかしいのではないかと考えを改めることになった。


(会ったこともないのに。どうして、私は聖女を嫌っているんだろう……? 私の何が、強烈な怒りを呼び覚まそうとしているんだろう?)


フェリシアは成長するにつれて、そんなことを思うようになっていた。そんな風に思い悩んでいても、それを誰かに話したことはなかった。幼なじみにすらしたことはない。


(この国では、聖女の存在そのものが否定的で、昔は安心していたのに。今は、複雑な気持ちが強くなってきている。……聖女を召喚することに成功しても救ってもらうことなく、一層のこと滅んでしまえばよかったと思うのは、私が最低な人間だからなのかしらね)


フェリシアは、そんなことを思って悲しげにしていた。婚約者が、いい人すぎて益々自分が嫌な性格をしている気がして辛かった。

もう聖女が召喚されることがないことを願わずにはいられなかった。

そうすれば、フェリシアの祖先のようにはならなかったはずだとすら思ったのだが、祖先が何を思っていたかなどフェリシアが知りもしないくせになぜそんな風に思ったのかをこの時のフェリシアは疑問にすら思わなかった。

ただ、疑問に思うこともなく、聖女を嫌っていた昔のフェリシアよりも、何かが呼び覚まされて変化を始めていたことにも、気づいていなかった。

何一つとして変わってはいないと思いたかったのかも知れない。昔も、今も、何が起ころうとも、聖女という存在に対して、そして信じていない人たちが変わらないままなことを誰よりも望んでいたのは、フェリシアだった。


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