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第1章

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フェリシアが婚約した時も、幼なじみのアルセーヌは変わらずにこにことして、フェリシアを出迎えてくれた。

その頃には、最初に出会った頃とは違って顔色も随分と良くなっていた。でも、フェリシアと遊び回る体力はなかった。もっとも、そんな体力がアルセーヌにあったらふせってなんていなかっただろう。

フェリシアの体力は、落ち着いているとはいえ、不眠不休で没頭してもぴんぴんしているくらいだ。それが、異様で異常なことにフェリシアは気づいてはいなかった。


「おめでとう。フェリシア」
「ありがとう」


フェリシアが、婚約したことを嬉しそうにしてくれたのを見てアルセーヌは少しだけ、いや、かなり複雑なものを持ったが、すぐに気のせいだと思うことにした。

だが、その後で彼の病弱ぶりが改善されないことを理由に跡継ぎを彼の弟にすることにしたらしく、隣国の叔父夫妻のところの養子になることにしたと言われた時には、フェリシアは言いしれぬ不安を覚えてしまった。

自分が誰と婚約しても、アルセーヌとは幼なじみのままで、会いたければ会いに行ける距離に彼が居続けてくれることが当たり前となっていたフェリシアは、急にそれが叶わない距離に行ってしまうことになり、気がおかしくなりかけた。


(まるで、この世の終わりみたい。幼なじみが、早々会いに行けないところに行くだけなのに。今生の別れみたいに思うなんて、変よね)


フェリシアは、自分でもそんなことを思っていた。でも、アルセーヌと離れることが不安でたまらなかった。それは、アルセーヌの病気が悪化するのではないかというものではなかった。

年に一度でもいいから決まった日に会えるとかならまだ良かったが、そうではないことに言葉に表せない不安がフェリシアにはあった。


「フェリシア。僕にもう二度と会えなくなるわけではないよ」
「でも、アルセーヌ」
「ごめんね。ずっと側にいてあげたいけど、僕にはこの国にずっと居続けるのは、難しいんだ」
「アルセーヌ……?」


まるで、何かを見透かすようにフェリシアを見た。その瞳に懐かしさと切なさを感じずにはいられなかった。


(何で、こんなにも彼が側にいなくなると思うと不安になるの……?)


それが、なぜなのかがわからなかった。アルセーヌのことを困らせたいわけでもないのに側にいてと言いたくてたまらなかった。


「フェリシア。君なら、大丈夫だよ。幼なじみの僕より、頼り甲斐のある婚約者ができたんだ。彼を頼るといい」
「……」


フェリシアは、その言葉にハッとした。

いくら病弱の幼なじみとはいえ、頻繁に見舞いに来ていることにアルセーヌが迷惑していたことにようやく気づけた。

それを回避するために彼は、この家のお荷物にこれ以上なりたくなくて、隣国の叔父夫妻の養子になることにしたことに気づいてしまったのだ。


(どうして、気づかなかったんだろう)


「アルセーヌ」
「ずっと決めていたことなんだ。この国で、跡継ぎになるのは、僕には難しい。この身体が、受け付けないんだ」


その言い方にフェリシアは首を傾げたくなったが、彼がそういうならそうなのだろうと思った。


「……隣国なら、元気になれるの?」
「多分ね」
「アルセーヌ」
「君ほど元気になるのは、無理だよ。わかるだろ?」
「私を規格外みたいに言わないで」
「その通りだろ?」
「おさまりきらないのは、私が悪いわけじゃないわ。周りが、軟なだけよ」


ツンとしながらフェリシアは、そんなことを言って2人で笑っていた。フェリシアは、アルセーヌが元気になるのならと笑って送り出すことにした。

そうしなければ、彼の幸せが途絶えてしまう。それだけは、絶対に避けたかった。


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