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第1章

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(私、あそこまでではなかったわよね?)


何もかも手にして、さも当たり前にしている女性を見て、そんなことを思っていた。家柄も、生い立ちも、何もかも完璧なフェリシアとは違い、どこの誰なのかがイマイチわからない者と同じことに頑張らないのは、それなりに頑張ってきたからだ。

取られる前まで、フェリシアが必死になっていたことも大きかった。それがなければ、こんなに悔しいと思うことはなかっただろう。

なぜ、そんなことを思うのかというよりも、この国の人々はともかく、せめて婚約者だけは心から信じて疑うことをやめて、回心して大反省までしたのだ。そんな自分が愚かだったと痛烈に思えてならなかったことが、段々と悔しくなっていた。

婚約者に気を許すうちにこの国の人々のことも信じていた。


(やっぱり、信じたりするんじゃなかった。この国の人間なんて、信じた私が愚かだったわ。身をこらして努力なんて惜しむんじゃなかった。やっぱり、この世の中に何もかもが完璧な人間なんていないんだわ。最後は呆気なく、裏切られてなかったことになるだけ。……そんなこと、誰かに教わらずとも、わかっていたはずなのに)


今まで溜め込んで抑え込んでいたどす黒い感情が、沸き起こることをフェリシアは我慢できなくなっていた。

ただですら、大嫌いな存在だった者を理解することができたと思っていたのもあり複雑でしかなかった。

デュドネの国で、フェリシアの目の前で、自分の立ち位置に何の苦労もなくおさまり、ちやほやされ祀り上げられる女性の方より、それを平然と当たり前のようにする人々を見て虫酸が走った。

そして、その光景を見て、こうも思った。


(私、ここまで嫌っていたのね。私が子孫だと知った時よりも、怒りがこみ上げてくるものがあるわ。これは、今目の前にいる女に対してなのか。それとも、ころっと騙されてしまった元婚約者になのか。それとも、この国の人々への怒りなのかがわからないけど。こんなあっさりと人の心は変わるのね。それが一番嫌かも知れない。……見たくなかったわ)


婚約者との関係が永遠に相思相愛のまま、誰にも邪魔されることなく続くものと思っていたが、永遠なんて存在しなかったのだ。

それを婚約して数年後に思い知ることになるとは思ってもみなかった。これ以上ないほどの努力をした後のせいで余計に辛く、そして物凄く呆気ないものに思えた。

誰から見ても相思相愛のフェリシアたちは出会うべくして出会い、くっつくべくしてくっついた。それが運命だとすら思って、それにフェリシアは束の間でも感謝して、努力までした。順風満帆に幸せな一生を送るものだと思って、信じ切っていた。

彼も同じ気持ちなのだと思っていた。でも、今となっては、それは怪しいことばかりだ。

少なくともフェリシアは、婚約者こそ自分の運命の人だと信じて、疑いもしなくなっていた。自分の運命の人のためにと奔走し続けて、これからも頑張ろうとすら思っていた。あの女が現れるまでは、その気持ちに偽りはなかった。


(どうして、こんなことになってしまったのよ。今、この国にも世界にだって必要ではないはずなのに。どうして、今回はあちらをみんなが信じて守っているの? どうして、これまで必死に頑張っていた私のことを信じてくれないのよ!!)


フェリシアは、自分でなぜそんな風に思うのかがわからないが、こみ上げる感情がおさえられずにいた。

でも、元々友達の1人も側にいない状態が長く続いているフェリシアにとって、それを声に出していても味方してくれようとした者がいるかは怪しいものがあった。

それどころか。人々の記憶があやふやになっていて、全てはあちらの女に都合の良いものに成り代わっているところで、おかしいと思って味方してくれるような人なんて、フェリシアにはいなかった。

そこは、悲しんでいいのか。喜んでいいのかはわからない。唯一の友達だと思ってる者にそうでなかったとわかったら、婚約者の時と同じようにショックは計り知れなかったことだろう。

いや、それ以上のショックを受けていたに違いない。そう考えると婚約者と友達のどちらが、フェリシアにとって大事なのかがわかりそうなものだが、そこに行き着くことはなかった。それどころではなかった。

誰よりもフェリシアの胸を抉ったのは、愛してやまなかった婚約者が一番酷かったことで、そんな相手を信用した自分が一番許せず見る目がないと思ってもいた。


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