10 / 15
10
しおりを挟むあの頃のアディラは、母を亡くしてショックを受けている状態だった。そこに後妻となった義母と異母妹に会うことになったのだが、父は平然とアディラにこう言った。
「お前の新しい母親と腹違いの妹だ」
「え?」
はっきりとアディラにそう言ったのを今も覚えているし耳に残っている。新しい母親やその連れ子と言うなら、まだしも腹違いの妹だと言ったのだ。父は自分の娘だとアディラに言ったことで、頭の中は真っ白になった。
アディラの母の葬儀が終わって、半月しか経っていないのだ。そこでこんなことを言われて、思考が停止しないわけがない。
それに腹違いの妹とは、歳がそう変わりなさそうなのだ。それについてもアディラは色々聞きたかったが、義母は……。
「初めまして、これからよろしくね」
「……」
義母は、にっこりと作り笑いをアディラに見せた。アディラの実母は気品のある人だったが、義母となった女性は気品なんて全くない人だった。子持ちとは思えないほど、けばいすぎる化粧と香水の匂いが酷い人だった
そして、その横にいる異母妹もまた気品とは無縁の派手な格好をしていた。
アディラより少しばかり年下のようにしか見えないが、母親を真似ているのか。化粧をしていて、可愛らしいなんて言えない見た目をしていた。
「お母さん、私、別のお姉さんがいい」
「こら、そんなこと言わないの。ごめんなさいね。これからは、この子とも仲良くしてあげてね」
「……」
「別にいいよ。私、もっと素敵なお姉さんがいい」
そんなことを平然と言う義妹を全く叱らない父を見てアディラは、自分の家族はもうどこにもいないことを痛感した。
そこから、アディラは婚約者を義妹に奪われることになった。
いつの間にか、当たり前のように義妹の方のご機嫌伺いをするようになった。アディラの周りに楽しいと思えることなど、全くなくなった。その早さにアディラは、遠い目をした。
みんながみんな、聖女になるのはアディラの義妹の方だと思っていた。だから、アディラの婚約者だったあの男も、アディラをあっさりと捨てたのだ。
周りも、元婚約者が聖女がアディラなわけがないと言うのを信じた。父も、義母も、そうだった。
別に聖女は、自分だとアディラが言っていたわけでもないのに。そんなことを思うほどの勘違い令嬢かのようにアディラはされていた。
何が悲しいかといえば、友達だと思っていた令嬢たちが、あっさりと手のひらを返したことだ。
「ねぇ」
「あら、もう、こんな時間だわ」
「本当ね」
「……」
アディラが話しかけるとそんな風に無視されるようになったのにショックが大きかった。
アディラと仲良くしていると思われるのが、嫌だったのだろうことは後からわかったが、誰もがアディラから距離を置くことにしたことにどれだけ傷ついたことか。
そんな時に留学していたダルシットとアディラは出会った。
「やぁ、君、聖女?」
彼は、アディラにそんなことを言った。
「いいえ。私は、聖女ではありません」
「違うの?」
「違います」
じっとダルシットは、よくアディラを見てきた。会うたび、なせか聖女かと聞いて来る人だったが、自分が王子とは名乗らなかった。
自分を偽るのでもなく、彼はそれが素だったようだ。
きっと、身分に興味がないのだろう。だから、アディラは彼に変な気遣いもしなくてよかった。
変な子息だと偏見の目を向けることもなかったし、彼にいい加減にしてくれと言うことも、思うこともなかった。
ただ、毎回同じことを聞くことが不思議でならなかった。聖女かと毎回聞く人物は、彼だけだった。
一度として、他にアディラのことを聖女と言う者は、あの国にはいなかった。彼の目にアディラはどう映っていたのかが気になるところではあったが、ここで再会するとは思いもしなかった。
94
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
私は王子の婚約者にはなりたくありません。
黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。
愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。
いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。
そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。
父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。
しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。
なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。
さっさと留学先に戻りたいメリッサ。
そこへ聖女があらわれて――
婚約破棄のその後に起きる物語
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる