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第2章

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ウィスタリアが頼み込んで話していたわけではない。教えてくれと言ってはいない。

彼女は、語りたくて仕方がなかったように話が止まらなくなった。

この人は思うに寝ているだけの人を見ているのには向いているが、少しでも起きているというか。意識がある人の側にいさせるには全く向かない。

それだけではない。女官として、噂好きで知ったことをペラペラと誰彼構わず話す人間は致命的だ。王宮で仕えるには、そもそも向いていない。

他の貴族のところでも、雇うところはまずない。宣伝に向いているかも知れないが、好きなことを好きなように話すなら、それも駄目だろう。

それが、ここにいるとなるとそれなりの家柄になる。


(あの態度が許される家柄には、失礼だけど見えないのよね)


仕草や動き、言葉遣いを観察してウィスタリアはそんな風にマリカを見て思った。

それに比べて、悲鳴をあげた方は……。


(マリカのせいで、説教が続いているけど、相変わらず気にしているのは、厨房からかっぱらって来たお菓子ね)


説教されているのにそれを気にしているのも凄い。その視線の先に全く気づかない女官長にも、びっくりだ。

女官長の説教がいつもこんな感じなのだと彷彿とさせるものをウィスタリアは見ることになった。

あまりそれを見ていても、終わりそうもない。そもそも、怒るのに向いているとも思えない。あれで、女官長なのだとしたら、女官があぁなのもわかるというものではなかろうか。

それこそ、マリカの話すことより、くだらないとしか言えない説教より別のことを考えることにした。


(天姫のことで、あそこまで語られるとは思わなかったわ。……まるで、実物を見聞きしたみたいだった。あれが浸透している一般的な話なのかしら? だとしたら、この国の人たちは、夢見がちな気がする。……それに寝ていでいつ起きるか、わからない人間より、もっと面白いと思うところに行っていたと考える方が当たってる気がする)


ウィスタリアは、マリカの話すのに付き合わされることになり、交代の時間になって現れた女官によって、ようやく目覚めたことが、悲鳴によって知れ渡ることになった。それも、どうかと思うが。


(でも、遠くまで聞こえたでしょうね。私は近くで聞いたせいで、頭痛がおさまらなくなってるわ。散々寝ていたはずなのに。休みたいと思うなんて初めてだわ。……新しい環境に気を遣いすぎたとか? いや、逆か。こんなに気を遣われないなんて、初めての経験で、よくわからなくなってきたわ)


ウィスタリアは、下手くそすぎる残念な化粧とセンスのなさすぎる服を着て、大はしゃぎして見せびらかす妹が、不意に懐かしくなってしまった。

その妹に殺意を向けられたというのにウィスタリアは……。


「お姉様!」


自分としては、最高の格好をしていると思って、見せに来た時を思い出した。


(あんな化粧をやめて、流行りの格好をしたら、とても可愛いのに。一度くらい、そう、一度でいいから、お揃いの服を着て見たかった)


殺意を向けられたというのになぜか、ウィスタリアはそんなことを思ってしまった。


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