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第1章

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ソレムは、ウィスタリアと婚約破棄してから、すぐに行動していた。だが、彼の思い描いたような未来がやって来ることはなかった。

ウィスタリアが亡くなる前に彼は婚約しようとしていたのだが、その令嬢にこんなことを言われていた。

その行動も破棄したその日からだったのだから、即行動できるところを証明したかったとはいえ、あり得ないことに本人は気づいていなかった。


「婚約……?」
「そうだ。ウィスタリアとの婚約は破棄した。これで、心置きなく、君と婚約できる」


そう言われた令嬢は、困惑した顔をした。


「あの、私、既に婚約しているのですけど」
「へ? 婚約?!」
「どなたかとお間違いでは? 私、あなたと話したことないはずですが……」
「っ、」


ソレムは、すぐさま緊張して間違えたと言い、その場を逃げた。

そして、逃げた先で他の令嬢に同じようなことをして声をかけ続け、その辺にいる令嬢みんなに婚約者がいると言われてしまったのだ。


「どうなっているんだ!? 何で、みんな婚約してるんだ?!」


自分とて、つい最近まで婚約していたのだ。適齢期になったのに婚約者がいないことの方が珍しいというのにこの子息は、それすら知らなかったようだ。

まぁ、知らなかったのだとしても、手当たり次第に婚約してくれと言うのは、どうなのだと思うところだが、それをずっと見ていた者は……。


「夢でも見ているのかと思った」
「そうね。あれを本気でしているとは思わなかったわ。ほら、劇の練習でもしているのかと思っていたの。そうでないとこっちが、変になりそうだったから、そのせいで私まで他の令嬢と同じことを言われるとは思わなかったわ。隣に婚約者がいるのに」


その令嬢は、横の婚約者を見た。夢だと思っていたのは、婚約者だったのだ。


「失礼な話だよな。こんなに美しいのに。婚約者がいないと思うなんて」


見ていた者に話を聞いた者は、その後、惚気けられて大変だったようだ。

その場を見ていた者は、そんな感じだった。いなかった子息は、それを婚約している令嬢から聞いて激怒した者は多かったかと言うとそうでもなかった。

怒る気にもならなかった。いつも、何かやらかすのだ。


「あぁ、あの男か。ウィスタリア嬢と婚約破棄したことで、婚約者がいないとまずいとでも思ったんだな」


ソレムをよく知る者は、そんな風に言い、婚約者の令嬢が怖かっただろうと心配して、子息は側にいるようになった。

変な風に目立つことになったが、ソレムは至って真面目だった。真面目という言葉の意味を彼がわかっているのかが疑問だが、冗談でしてはいなかった。

全てにおいて、本気でやっていた。それが、どれほど馬鹿げたことをしているように見えるかまではわかっていなかっただけだ。

そして、そんなことを息子がしていることを両親が気づいていなかったのは、ウィスタリアと馬鹿息子が婚約破棄をしたせいで、家の方の事業が大変なことになっていて、それどころではなかったせいでソレムが恥をさらしまくっていることを把握できていなかった。

流石に破棄してから、しばらく羽おとなしいだろうなんて、普通の考え方をする息子ではなかったのだ。


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