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第1章
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しおりを挟む王太子と婚約することになった令嬢は、ウィスタリアのよく知る人物だった。
努力を惜しまぬ令嬢だった。苦手な勉強を必死になって頑張っていて、そんな令嬢だったから親友とまでなった。
(不思議よね。昔から、よく知っているかのように彼女はしていたけど、あれは無意識のようだった。それに私には初めてにしか思えなかった。それなのに親との縁より、婚約者になるために養子にまでなった。もう、私の知る令嬢ではなくなってしまったみたいに思えてならないけど。それも、両親が話していたのを聞いていただけだから、何か他にも理由があったのかも)
だから、未だにウィスタリアは深い部分では親友なのだから理解しあえるものと思っていた。ウィスタリアの気持ちを身内よりもわかってくれていたのだから、自分も話を聞けば理解できると思っていた。
でも、そんなことはなかった。
王太子とその婚約者のための祝いの花火を見に行ったプリムローズが迷子になって、大人たちが責任のなすり合いをしていたことに呆れ果てる一幕があった次の日。
それは、婚約者に選ばれなかった日でもあったが、ウィスタリアは何事もなかったかのように日常に戻っていた。
(プリムローズが心配だわ。早く帰らなければ)
本当は、プリムローズが心配で学園を休もうかと思ったが、そんなことをすれば、王太子との婚約がなかったことであれやこれやと詮索されると厄介になると思ってしまった。
それは、自分のみならず、婚約した彼女も、そうなる。何より婚約者になれなかったからといって塞ぎ込んでいると思われたくはなかった。それを一番知られたくない相手は、王太子に対しての気持ちが大きかった。
ウィスタリアは、意地でいつも通りにした。
それよりも、疲れることがあって頭の痛いことばかりなのだが、それらもひた隠しにした。それは、意地だった。
(あちらに妹と思われていたのなら、私は兄だと思えていたら、どんなに楽になれたことか。それでも、今一度、名前を呼んでほしいと思ってしまう。なんて、諦めの悪いの)
王太子への気持ちを昇華しようとしても、上手くできずにいた。思い返す思い出の中で、柔らかに向けてくれた笑顔をウィスタリアは懐かしくて仕方がなかった。
それでも、心の内など見せることなく、平然としていた。
「ご婚約、おめでとうございます。ジュニパー様」
「やだ。ウィスタリア。そんな他人行儀なことはやめてよ。あなたと私の仲じゃない。様付けなんてしないで、あなたは私の唯一の親友なんだから。これからも、今まで通りに仲良くして、ちょうだい」
そう、ウィスタリアの親友の令嬢を王太子は、自分の隣に相応しいと思って選んだのだ。
親との縁を切ってまで、辞退しなかったことで、大どんでん返しが起こったのだが、それにも理由があったはずとウィスタリアは思い、色眼鏡で見ることをしないようにした。
(そうよね。ジュニパーは、変わらないわよね。だから、あの方は、彼女を選んだのかも知れないわ)
彼女はウィスタリアが心配するような令嬢ではなかったようだ。嫌な面があれば、いいのにと思ってしまって、そんな自分がウィスタリアは嫌でならなかった。
(私にこんなに嫌な部分があったなんて、思わなかったわ)
周りは、ジュニパーが婚約者に選ばれたことに色々言う者が多かった。それでも、ジュニパーの取り巻きになる者もいた。圧倒的に少なくとも、それがチャンスだと思って必死になっているようにも見えた。
それでも、必死になってウィスタリアは受け入れようとした。でも、なぜか、できなかったのだ。
(どうして? なぜ、受け入れられないの?!)
受け入れたら、まるでウィスタリアの心が死んでしまうかのように拒むのだ。
そのせいで、心から祝えない日々が続いていた。葛藤する毎日だったが、それをウィスタリアはひた隠しにし続けた。
そうしなければ、困らせてしまうだけなことを知っているからだ。そんな女々しさを見せたくなかった。もう、これ以上、妹以下になりたくなかった。嫌われたくなかった。
(おかしな話よね。もう既に嫌われているかも知れないのに)
好かれていなくとも、妹のままなことに不満があるのにそれ以下になりたくないのだから、乙女心とは難しい。
その間も、ジュニパーがこれまで通りに話しかけて来るため、普通に話していた。
その会話の中に王太子の話題があるたび、心の中は荒れ狂っていたが、それを悪意あって話しているなどと思ってもみなかった。
親友のままで、変わることはないのだと思っていたが、それすら最初から違っていたのではないかと思わせることが続くとは思わなかった。
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