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第1章
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しおりを挟む一方の侯爵家では、婚約者に選ばれなかったことで、ウィスタリアは両親に慰められているような愚痴を聞かされているような状況になっていた。
「気にすることないわ」
「そうだぞ。お前より、あの家の娘が選ばれるわけがないんだ」
「そうですとも。辞退するのが嫌で、実父母と縁を切ってまで、養子になるなんて信じられないわ」
「本当にそうだな。そんなことまでして、婚約者に選ばれたかったなんて……。何で、そんなのを選んだりしたんだか」
「……」
(これをやめてくれたら、心休まるのだけど。それにしても、プリムローズを見ていると和むわ)
両親の言葉を聞きながしながら、わけもわからず無邪気にお祝いムードにあてられたのか。妹のプリムローズが大はしゃぎするのを眺めていた。
並々ならぬ努力をしてきた。それは、候補者になった者たちは、みんなそうだったはずだ。だから、最後の最後で5人までになりながら、3人が立て続けに辞退したのだ。それがなければ、まだしばらくは候補者たちは争っていたに違いない。
ウィスタリアは、王太子の婚約者になりたかった。だから、それまで以上に頑張った。そのせいか、燃え尽きてしまったようになっていた。
(私、選ばれると思っていたのね。王太子が選ぶことだと周りに言いながら、選ばれなかった途端、なぜ?と思ってしまっている。何てことなの)
そんな感情を持っていたことに恥じ入っていた。ジュニパーには勝てると思っていたのだ。その感情を持っていたことが、嫌でならなかった。
祝う気持ちより、選ばれなかったことが悲しくて仕方がなかった。
「おねえさま、おねえさま! はなび!」
「……」
今まで必死になって頑張ってきたが、それが無駄になるわけでもないのに。選ばれなかったことで、急に何もかも意味がなくなってしまったかのようになっていて、途方に暮れてしまっている自分が情けなかった。
(こんなことでは、王太子の隣には相応しいくなかったわね)
そう思い、意識を目の前の妹に向けた。無邪気にはしゃぐ妹に花火を見に行こうと言われても、街に行く気には、どうしてもなれなかった。
妹は、ウィスタリアより1つ年下なだけだが、昔、高熱を出して寝込んで以来、幼さが残ってしまった。
そんなところすら、可愛らしいとシスコンなウィスタリアは思って見ていたが、周りも、両親も、そうは見えていないようだ。
「プリムローズ。ウィスタリアは疲れているんだ。休ませてやれ」
「えー、はなび!」
どこかに行く気にはならなかったが、妹にはそんなの関係ない。
妹は、行きたいと大騒ぎしていた。妹は拙い話し方しかできなくなっていた。ウィスタリアと同じ頃より、かなり幼く、同い年の子供よりも幼い妹。このまま成長したら、厄介になると思っているのは、両親だけではなかった。
でも、そう思うことが決してなかったのが、ウィスタリアだった。
王太子が何を思って選ばなかったかは知らないが、もう終わったことだ。そう切り替えられたらよいのだが、何でもそつなくできたウィスタリアでも、今回のことは難しいようだ。
(花火を1人では見に行かせられない)
ウィスタリアは、婚約者になるべく、奮闘してきた疲れが出たのか。花火を見に行けそうもなかった。
「プリムローズ。お父様と、お母様と行っておいで」
「おねえさま?」
「疲れているから、休んでいるわ。花火を私の代わりにたくさん見て来てくれる? その話、明日、聞かせてくれる?」
「うん!」
プリムローズは、ちゃんと言い聞かせれば、きちんとできた。何度も、同じことを言わなきゃいけなかったが、話せば伝わった。
それを面倒くさがるのは、両親だった。
「ウィスタリア」
「私は、部屋で休んでいます。プリムローズには、関係ないことです。花火を見させてあげてください。でも、街は大賑わいしているから、花火がよく見えるところから見て帰って来てくれれば大丈夫です。街には行かないようにして、迷子になったら大変ですから」
「だがな」
「この子が、私たちの言うことを聞くとは思えないわ」
連れて行くと面倒くさいと言わんげにしている両親に親らしいことをたまにはしてと言いたいのをグッとこらえた。
「花火は、思い出深いのでしょう? 滅多に見られないのに音だけで済まてしまわれるのですか?」
「あら、よく覚えているわね」
母は、途端に上機嫌になった。
(わかりやすいのよね)
「確かに私たちの結婚式は、国でも未だに素晴らしかったと言われるほどの花火が上がった。そうだな。あの時より、見劣りはしないだろう。見に行くか?」
「そうですね。王族のものに比べると流石に勝てませんものね。でも、花火ですものね」
(素晴らしかったと言われているのを褒め言葉と捉えているのね。他の家と被るようにして、結婚式をして、馬鹿みたいに盛大にあげたって、分不相応な式をしたって、思われているのに。私でも気づいたことを未だに馬鹿にされていることに気づかないのね)
花火を見れると喜んで、両親の手を引いてプリムローズが出かけて行くのをウィスタリアは見送った。
(明日までには、いつもの私に戻らなければ)
そう思いながら、ふらつく身体で部屋に戻った。
「ウィスタリア様、お医者様を呼びますか?」
「平気よ。ただ、疲れが出ただけよ。休めば、よくなるわ」
「ですが」
「プリムローズたちが帰って来たら教えて。大はしゃぎして、寝てくれるまで大変だろうから」
プリムローズは、興奮すると寝かせるのが大変なのだ。それをわかっていたメイドも、自分たちでは無理だと思っていて、了承するしかなかった。
本当なら、そのまま、任せてもらって休んでいてほしかったが、それができないのだ。顔色悪く目をつぶったウィスタリアを心配そうにしながら、メイドは部屋を出た。
この時、妹と一緒にウィスタリアが着いて行っていたら、違った未来があったのかも知れないが、そんなことになるなんて、この時点では思いもしなかった。みんな、ウィスタリアほどでなくとも、疲れていたのだ。中には、怒ったり愚痴ったりして疲れていたのもいたが、使用人たちもウィスタリアほどでなくとも、子爵夫妻はあの調子だし、プリムローズもいつものままだ。いつも以上に気を遣って仕事をしていたのだ。
だから、ウィスタリアがそうしたのだから大丈夫だろうと思う判断にも間違いがあることを思い知ることになるとは思わなかった。
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