20 / 25
20
しおりを挟む冬休みも、僕は花屋のバイトに明け暮れていた。
母さんといても息がつまり始めていた。父さんも、同じようだ。父さんは、実家に行っていて、僕もあとから合流するが、母さんは自分の実家で正月を過ごすことにしたようだ。
まぁ、各々の実家で過ごすのもありだよな。
クリスマス用のアレンジが終わると正月飾りになって喜んでたけど、これも飽きたな。この時期の仕事は疲れるだけでなくて、しんどすぎるだろ。水仕事が辛すぎる。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
佳都くんがやって来た。その隣には琴葉さんがいた。
私服がレベル高すぎて、自分の私服のセンスのなさに泣けてくるな。
既に疲れ果てていて、テンションがおかしくなっていた。
「この間は、クリスマスパーティーにお招き頂いて、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、来てくださって、ありがとうございました。両親も、喜んでいました」
そうなのだ。琴葉さんに気に入られ、両親が気になったらしく、僕は莉緒さんと共にクリスマスパーティーに招かれてしまったのだ。
あんな華やかなパーティーに参加することになるとは思わなかった。
佳都も、パーティーに呼ばれていて、僕らが一緒なことにホッとしていたようだ。まぁわからなくはないが。
そんなところに呼ばれて、僕だって緊張していた。していたんだが、贅を尽くした花に目を輝かせてしまったのだ。
それで、花のことで琴葉さんのお母さんと意気投合してしまったのだ。
しかも、琴葉さんの誕生日のプレゼントのプリザーブドフラワーのアドバイスをしたのが僕とわかって、目の輝きが違ったかと思えば、見覚えのある押し花アートの妖精が明らかに高めの額に入れられて飾られていたのだ。
「え? 何で、僕の作ったのが、ここにあるんだ??」
どうやら、2年前の園芸部の文化祭の出し物を買ったのは、琴葉さんだったようだが、それをすっかり気に入ってのは、彼女の母親だったようだ。もちろん、父親も気に入ったらしく、額にいれて飾っていてくれたようだ。
「これ、あなたが作ったの?」
「えっと、はい」
「今年は、作品を作らなかったの?」
「え? いえ、あの、僕、そもそも園芸部員ではなくて、助っ人要員でして」
1から話すことになり、琴葉さんとその両親のみならず、その話を佳都くんと莉緒さんにまで聞かれることになった。
そこから、花屋でのバイトのことやら、プリザーブドフラワーのことを話したのは、佳都くんだった。
琴葉さんは、宝物のようにそれを持って来て、莉緒さんに見せていた。
彼氏が作ったから、大事にするのはわかるな。
「凄く綺麗」
うん。君の好きな人が一生懸命に作ったからね。わかるよ。
そんなことがあり、琴葉さんのお父さんに手招きされた。
「?」
「あの、プリザーブドフラワーは、私にも作れるものなのかな?」
「え? あ、はい。その、ご要望に合わせて、配置するだけで済むようにギリギリまで、お手伝いすることもできますし、全部をやりたいと言うならワンツーマンで完成まで、お手伝いします」
「そうか。その、来年、結婚20周年なんだが、妻が娘の誕生日プレゼントをえらく気に入っていてな。私も、記念にプレゼントとしたいと思ってるんだが、その何分、不器用でな」
「えっと、その、色々なことは、正式にご依頼いただいてからの方がいいかと。それにその、僕、長期休暇の間の臨時のバイトなんです」
「ふむ。バイト先では、講習を任されてるようだが?」
「あー、はい。ご指名をいただいたのと店長が許可してくれたので。えっと、あ、これが、僕のバイト先の名刺です。店長が、僕の叔母で帰ったら、今回のこと話しておくので、直接、ご依頼の方をしていただけますか? 店長がオッケー出してくれれば、全力でお手伝いさせていただきますので」
「そうか。わかった」
こんなところで営業することになるとは、思わなかった。
「君は、高校2年生だったか?」
「あ、はい。そうです」
「そうか。琴葉たちが気に入るのが、よくわかる」
「?」
そんなこんなで、僕はその話を叔母にした。
「それ、そこまでしてきて、断れないわよね?」
「ごめん。でも、結婚記念のプレゼントと聞いたら感動しちゃって、お金持ちでも手作りするって、凄いと思わない? しかも、不器用なのまで話してくれたんだよ? そこまでして、娘のを見て羨ましそうにしてる奥さんのことをちゃんと見てるなんていい夫婦だよね」
「あー、もう、わかったわよ。その代わり、きっちりと仕事するのよ? 来年は、受験生なのに引き受けるんだから、半端なことしたら許さないからね」
「わかってるよ」
そんなこんなで、僕はクリスマスが終わって、正月が終わって、三学期が始まって、学年末試験に追われ、卒業式で世話になった先輩たちを見送って、春休みになっても忙しさに変わりはなかった。
10
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜
若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)
現代文学
「さて、ここで解け落ちた氷の話をしよう。氷から解け落ちた雫の話をしようじゃないか」
解け落ちた氷は、社会からあぶれ外れてしまう姿によく似ている。もともと同一の存在であったはずなのに、一度解けてしまえばつららのように垂れさがっている氷にはなることはできない。
「解け落ちた氷」と言える彼らは、何かを探し求めながら高校生活を謳歌する。吃音症を患った女の子、どこか雰囲気が異なってしまった幼馴染、そして密かに禁忌の愛を紡ぐ主人公とその妹。
そんな人たちとの関わりの中で、主人公が「本当」を探していくお話です。
※この物語は近親愛を題材にした恋愛・現代ドラマの作品です。
5月からしばらく毎日4話以上の更新が入ります。よろしくお願いします。
関連作品:『彩る季節を選べたら』:https://www.alphapolis.co.jp/novel/114384109/903870270
「解け落ちた氷のその行方」の別世界線のお話。完結済み。見ておくと、よりこの作品を楽しめるかもしれません。
学校に行きたくない私達の物語
能登原あめ
青春
※ 甘酸っぱい青春を目指しました。ピュアです。
「学校に行きたくない」
大きな理由じゃないけれど、休みたい日もある。
休みがちな女子高生達が悩んで、恋して、探りながら一歩前に進むお話です。
(それぞれ独立した話になります)
1 雨とピアノ 全6話(同級生)
2 日曜の駆ける約束 全4話(後輩)
3 それが儚いものだと知ったら 全6話(先輩)
* コメント欄はネタバレ配慮していないため、お気をつけください。
* 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
青春
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
屋上でポテチ
ノコギリマン
ライト文芸
中学校の屋上で、カップル下校をカウントしている帰宅部の三人、誕生日に次々に告白されて疲れて果てたままバス停で雨宿りする野球部員、失恋するたびに家に帰るとトイレから出て来る父親にウンザリしている女子――
――中学生の何気ない日常を切り取った連作短編。
ひとつひとつは独立していて短いので読みやすいと思います。
順番に読むと、より面白いと思います。
よろしくお願いします。
マコトとツバサ
シナモン
青春
かっこいい彼氏をもつとすごく大変。注目されるわ意地悪されるわ毎日振り回されっぱなし。
こんなあたしのどこがいいの?
悶々とするあたしに
ハンドメイドと料理が得意なうちのお母さんが意外なことを教えてくれた。
実は、1/2の奇跡だったの。
片翼のエール
乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」
高校総体テニス競技個人決勝。
大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。
技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。
それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。
そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。
水曜日は図書室で
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
青春
綾織 美久(あやおり みく)、高校二年生。
見た目も地味で引っ込み思案な性格の美久は目立つことが苦手でクラスでも静かに過ごしていた。好きなのは図書室で本を見たり読んだりすること、それともうひとつ。
あるとき美久は図書室で一人の男子・久保田 快(くぼた かい)に出会う。彼はカッコよかったがどこか不思議を秘めていた。偶然から美久は彼と仲良くなっていき『水曜日は図書室で会おう』と約束をすることに……。
第12回ドリーム小説大賞にて奨励賞をいただきました!
本当にありがとうございます!
エスケーブ
Arpad
青春
作るんだ、俺たちのヘイブンを! 入学した高校での部活強制から逃れる為、避難所(エスケー部)の創設を画策する主人公。しかし、計画は早々に乗っ取られ、意図していなかった方向へと突き進んでいく。それでも彼は、自らの避難所を守る為、全力で奔走する。これは、しがらみから逃れようと足掻き、さらに厄介なしがらみに捕らわれていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる