上 下
13 / 25

13

しおりを挟む

2年生の文化祭も思い出深いものになった。

1年の頃は、演劇をやることになって、あれは未知との遭遇だった。

まぁ、それはおいといて。今回の文化祭のその後だ。電車で会うと莉緒さんも気づいてくれて、会釈してくれるようになったのだ。

その上、話しかけられるまでになった。ここまで、長かった。


「友達も、喜んでくれました。ありがとうございました」
「いえ、それこそ、申し訳なかったです。時間ずらしてもらったのにケーキを結局、提供できなくて」
「あれは、仕方がないですよ」


ケーキは完成したが、運んでいる途中で喧嘩に巻き込まれてしまったのだ。それを莉緒さんたちは目撃したらしく、何があったかを僕よりよく知っていた。

それでも、戻って来てもらったのだ。お茶を振る舞って、お持ち帰り用のお菓子をサービスしたのでは割りに合わない気がするが、割り引き以上のサービスは拒否されてしまった。

喧嘩していたのは、僕の学校の生徒たちではなかった。他校生たちだったが、台無しになったケーキの作者や運んでいるクラスメイトが泣いていて、ぶちギレた僕は喧嘩していた面々に説教していた。


「部外者は引っ込んでろ」
「あ? 引っ込めるか。クラスの出し物、台無しにされて、クラスメイトが泣いてんだ。部外者呼ばわりされたくない」


ぶちギレた僕は、中々恐ろしかったようだ。何を言ったかを全く憶えていないが、先生方にそのくらいでいいだろうと宥められて、ハッと気づけば、喧嘩していた他校の生徒が半泣きで土下座していた。僕にだ。

あの時の僕は、一体、何を言ったんだろうか。


「それに感動したんです」
「?」
「凪さんが、あんな風にしっかりと説教して、本気で悪いと思ってるなら、片付けして行け。謝罪なら、口先だけで誰でもできるが、きちんと反省してる人間の誠意でしか、本当の謝罪はあり得ない」


……そんなこと言ったのか?全く憶えていないぞ。

せっかく来てくれる人たちにケーキ待ちが多かったのだ。あれは、本当に美味かったからわかる。

それを一瞬で台無しにしたのだ。キレないわけがないではないか。


「それで、片付け終わって、もう一度謝罪に来た人たちに前より綺麗にしてくれて、ありがとうってお礼言って、お茶を振る舞ってたの見て、凄いなって思ったんです」
「……」


いや、あれは、お茶があとちょっとで飲みきってなくなると助かると思って、茶葉を消費したかっただけなんだ。

確かにあの後、クラスメイトたちにも色々言われた。怖がられたり、尊敬の眼差しを向けられたりしたが、そうか。僕は、色々やらかしてしまっていたせいなのか。

なんだかんだ言って、喧嘩してた他校の生徒たちとも連絡先を交換した。喧嘩っぱやいが、いい奴らだった。アニキって呼ぶのは、全力で遠慮した。

そのせいか。修学旅行の班を一緒にならないかと色々と声をかけられていた。主に女子からだ。

どうしたものかと思っていたら、担任は公平にくじ引きでもしとけと言って、僕が何か言う前に決着がついてしまっていた。

これは、何か。モテ期が到来しているのか?

そのくじを担任は、僕に引かせた。それをまじまじと見返してしまったのは悪くないはずだ。


「え? 僕が引くんですか?」
「引いたとこの班の方が簡単だろ」
「確かに」
「ほれ、引け」
「……」


そんなこんなで引いたくじは、クラスメイトでよく話す女の子の千晴さんと同じだった。


「やったじゃん!」


千晴さんではなくて、その友達が喜んでいた。


「凪さん?」
「え?」
「着きましたよ?」
「あ、本当だ」


僕は、危うく乗り過ごすところだったようだ。

声をかけれて、僕の方が先に降りた。彼女は、この先の駅の近くの高校だ。


「ありがとう。それじゃ、また」
「はい。また」


ひらひらと手を振られ、フレンドリーな莉緒さんにつられて手を返した。

うん。今日も、いい日になりそうだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)
現代文学
「さて、ここで解け落ちた氷の話をしよう。氷から解け落ちた雫の話をしようじゃないか」 解け落ちた氷は、社会からあぶれ外れてしまう姿によく似ている。もともと同一の存在であったはずなのに、一度解けてしまえばつららのように垂れさがっている氷にはなることはできない。 「解け落ちた氷」と言える彼らは、何かを探し求めながら高校生活を謳歌する。吃音症を患った女の子、どこか雰囲気が異なってしまった幼馴染、そして密かに禁忌の愛を紡ぐ主人公とその妹。 そんな人たちとの関わりの中で、主人公が「本当」を探していくお話です。 ※この物語は近親愛を題材にした恋愛・現代ドラマの作品です。 5月からしばらく毎日4話以上の更新が入ります。よろしくお願いします。 関連作品:『彩る季節を選べたら』:https://www.alphapolis.co.jp/novel/114384109/903870270 「解け落ちた氷のその行方」の別世界線のお話。完結済み。見ておくと、よりこの作品を楽しめるかもしれません。

学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ
青春
※ 甘酸っぱい青春を目指しました。ピュアです。 「学校に行きたくない」  大きな理由じゃないけれど、休みたい日もある。  休みがちな女子高生達が悩んで、恋して、探りながら一歩前に進むお話です。  (それぞれ独立した話になります) 1 雨とピアノ 全6話(同級生) 2 日曜の駆ける約束 全4話(後輩) 3 それが儚いものだと知ったら 全6話(先輩) * コメント欄はネタバレ配慮していないため、お気をつけください。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

片翼のエール

乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」 高校総体テニス競技個人決勝。 大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。 技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。 それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。 そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。

マコトとツバサ

シナモン
青春
かっこいい彼氏をもつとすごく大変。注目されるわ意地悪されるわ毎日振り回されっぱなし。 こんなあたしのどこがいいの? 悶々とするあたしに ハンドメイドと料理が得意なうちのお母さんが意外なことを教えてくれた。 実は、1/2の奇跡だったの。

僕は☓っぽいけど○だから☓子校に行くなんて間違ってる!

だらけたい
青春
 僕は○なんだ。  でも、なぜか☓っぽくみられてしまう。  普通にやってるのに☓っぽいと言われてしまう。  そして、なぜかついには☓子校に通うことになってしまった。  ホントになんでこんなことになってしまったんだ!  何度でも言うよ!僕は○なんだ!!誰がなんと言おうと○なんだ!!!

傷つけて、傷つけられて……そうして僕らは、大人になっていく。 ――「本命彼女はモテすぎ注意!」サイドストーリー 佐々木史帆――

玉水ひひな
青春
「本命彼女はモテすぎ注意! ~高嶺に咲いてる僕のキミ~」のサイドストーリー短編です!  ヒロインは同作登場の佐々木史帆(ささきしほ)です。  本編試し読みで彼女の登場シーンは全部出ているので、よろしければ同作試し読みを読んでからお読みください。 《あらすじ》  憧れの「高校生」になった【佐々木史帆】は、彼氏が欲しくて堪まらない。  同じクラスで一番好みのタイプだった【桐生翔真(きりゅうしょうま)】という男子にほのかな憧れを抱き、何とかアプローチを頑張るのだが、彼にはいつしか、「高嶺の花」な本命の彼女ができてしまったようで――!   ---  二万字弱の短編です。お時間のある時に読んでもらえたら嬉しいです!

吹奏楽部

Nal
青春
コントラバスを弾く女の子のお話。

天才学級

福竜キノコ
青春
普通の女性宵宮美月(よいみやみづき)はある日一通の手紙によって、展再学園高校の差別クラス3年8組の担任教師になる。 そこにいたのは自分たちを落ちこぼれと認識し、絶望していた生徒たち。 この物語は生徒たちが、美月によって天才へと変わっていく物語。 そして、やがてこの学園のすべてがわかったとき、彼女たちはどのような進路を選択するのか。

処理中です...