上 下
14 / 14

14

しおりを挟む

その後、王女が婚約したのはラジェンドラだった。

ラジェンドラは、悪友の元婚約者なこともあり、婚約する気はなかったようだが、そんなところも王女が気に入った要因の1つのようだ。

ヴィディヤとしては、サントスよりも従兄の方が素敵な子息だと前々から思っていた。そのため、王女の必死さにヴィディヤも助太刀することにした。

何より、王女とは似ているところがあり、従兄と婚約すれば、その後も長い付き合いになれる。一生ものの友を逃したくなかった。


「お前まで、王女と婚約しろと言うのか?」
「あら、そうなったら、義理でも従姉妹になれるのですもの。妹がほしい従兄様なら、わかってくれるでしょ?」
「……」
「……でも、そうよね。無理を言ってるわよね」


しょんぼりしながら、ヴィディヤはそんなことを言った。


「はぁ~。お前にねだられると弱いんだよな」
「あら、逆に王女様のどこが気に入らないのですか?」
「……」
「あるのですよね? あの、どこぞの知りたがりに義理立てする以外に」
「……」
「ないのでしたら、悪友に義理立てするのをどこぞの放り投げて考えてみてください。もちろん、私のわがままも、捨てて構いません。王女様は、真剣に従兄様に好意を向けているのですから、無下になさらないで。……じゃないと」
「じゃないと?」
「従兄様とも二度と口をききません」


ヴィディヤは、にっこりと笑った。

ラジェンドラは、それこそ、脅しではないかと言いたかったが、全てを飲み込んだ。

ラジェンドラの弟が、兄がやり込められているのをニヤニヤ見ていたが、ヴィディヤは気にしていなかった。従弟は、王女が兄の婚約者になったら、どうなるかを考えてはいないのだ。

ヴィディヤが、そんな従弟に何か言うことはなかった。

その後、王女は無事にラジェンドラと婚約することになり、サントスと婚約していた時以上に幸せそうにする2人をよく見かけるようになった。

その頃には、ヴィディヤは王太子妃となっていて、仲睦まじく幸せそうにしている2人を見て笑顔になっていた。

ヴィディヤは、幼なじみ以上の面倒な人物に遭遇することもなく、トリシュナに比べて大したことないと思って何事もこなしていた。すると不思議なことに無理難題を言われても、慣れとは恐ろしいもので、こなせてしまっていた。それも、幼なじみに鍛えられたことが大半だったが、ふと思ったのは……。


「あの幼なじみのやることなすことで、鍛えられていたみたいね」


何気にヴィディヤは、幼なじみのおかげで逞しくなれていたようだが、彼女にわざわざ会ってお礼を言う気にはならなかった。

謝罪を一度もされなかったが、謝罪をきちんとしてくれていたとしても、ヴィディヤは二度と会いたくなかった。まぁ、それはお互い様々だったかも知れないが。

幼なじみと言っても、トリシュナを心から理解できた者は現れなかったようだ。

母親にも、自分の娘とは思えないと言われても、トリシュナは母親だけは悪く言わなかったようだ。そこに刷り込まれたものが凝縮していたようだが、彼女の母親がそれをわかることはなかった。

ヴィディヤたちは、色んな人たちに羨まれるような素晴らしい人生を送ることになった。

時折、厄介なのも現れたが、2人の舌戦に敵う者などいなかった。


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

純血乙女なのに破瓜の濡れ衣着せられて婚約破棄された~とりあえず次の結婚どうしようかなぁ~

うめまつ
恋愛
婚約破棄ノーダメージな令嬢は結婚に何を望む? ※そのうち題名を変えるかもです。 ※お気に入り、栞ありがとうございます(*´・∀・`*)

悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?

輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー? 「今さら口説かれても困るんですけど…。」 後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о) 優しい感想待ってます♪

婚約破棄。される前にしてやりましょう

碧桜 汐香
恋愛
乙女ゲーの悪役令嬢だと気づいたのは、断罪されるパーティーに向かう馬車の中!? お父様に頼んで各所と交渉してもらい、いろんな証拠をしっかりと固めて、先に婚約破棄を宣言して差し上げましょう。

私を追い出したことを今になって後悔するなんて、ざまぁないですね♪

新野乃花(大舟)
恋愛
伯爵としての立場を有しているノレッドは、自身の婚約者として同じく貴族令嬢であるセシリアの事を迎え入れた。しかし、ノレッドはその関係を築いていながらルリアという女性に夢中になってしまい、セシリアに適当な理由を突き付けてその婚約を破棄してしまう。自分は貴族の中でも高い地位を持っているため、誰も自分に逆らうことはできない。これで自分の計画通りになったと言うノレッドであったが、セシリアの後ろには貴族会の統括であるフォーリッドがおり、二人は実の親子のような深い絆で結ばれているという事に気づかなかった。本気を出したフォーリッドの前にノレッドは一方的に立場を失っていくこととなり、婚約破棄を後悔した時にはすべてが手遅れなのだった…。

婚約破棄?私、貴方の婚約者ではありませんけれど

oro
恋愛
「アイリーン・ヒメネス!私は今この場で婚約を破棄する!」 王宮でのパーティにて、突然そう高らかに宣言したこの国の第1王子。 名前を呼ばれたアイリーンは、ニコリと微笑んで言った。 「あらあらそれは。おめでとうございます。」 ※誤字、脱字があります。御容赦ください。

「君の話はつまらない」と言われて婚約を破棄されましたが、本当につまらないのはあなたの方ですよ。

冬吹せいら
恋愛
「君の話はつまらない」  公爵令息のハメッド・リベルトンに婚約破棄をされた伯爵令嬢、リゼッタ・アリスベル。  リゼッタは聡明な美少女だ。  しかし、ハメッドはそんなリゼッタと婚約を破棄し、子爵令嬢のアイナ・ゴールドハンと婚約を結び直す。  その一方、リゼッタに好意を寄せていた侯爵家の令息が、彼女の家を訪れて……?

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

処理中です...