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ろくな挨拶もないまま、クリティアは自国へと帰ってしまったことを騎士たちは残念がった。破棄されたショックで、それどころではなかったのだろうと同情さえしていた。


実際のところ、クリティアはショックなど受けていない。ただ、今回も上手くいかなかったなと思っている程度だ。

愛していたのは、美しい彼だから。加護を失くせば昔の彼に戻る。それだけのことだ。


そんなことなど知らない騎士たちは、今まで抑えていた不満が爆発し始めた。婚約者だったクリティアがいたから抑えられていた。



「あんないい子を破棄して、他の令嬢と婚約するなんて何を考えているんだか」

「嫌な野郎だ。あんなの俺の部隊には願え下げだ」

「王の直属の騎士団には相応しくない」



誠実さの欠片もなかったアキントスは、騎士道精神のない男てして歓迎する気にはなれなくなっていた。


それまで、騎士の中でも強さを誇っていた彼は突然の不調をきたし始めた。負けてばかりになったのだ。破棄したことで、色々あったからだろうと最初は、言い訳して誤魔化していた。



「ずっと、頑張ってきていたから、疲れが出たのですわ」

「そうだな。そうに違いない」

「えぇ、そうですわ」

「誰しも調子の悪い時はありますもの」

「えぇ、少し休めば、また、前のようになりますわ」



新しい婚約者となったアンテリナは、一生懸命励ましていた。取り巻きの令嬢たちも、一緒になって慰めた。それ以外は冷ややかな態度だ。


テストの成績も悪くなった。授業を受けてもすぐに理解が出来なくなり、生徒会の仕事も、今まで淡々とこなせていたのが嘘のようにもたもたし始める。



「調子が悪いとは聞いていたが、ここまで酷いと補習を受けてもらわないと困るんだが……」

「っ、」

「だが、次回、いつものように戻っていれば補習はなしにしよう。君は、今まで色々と頑張っていたからな」

「ありがとうございます」

「……それとどこか悪いということはないのかね?」

「え?」

「制服を新調するといい。キツそうだ」

「あ、やっぱり。この間、新調したんですが、成長期みたいで」

「……」


先生たちは、成績優秀な◎◎をずっと贔屓していたこともあり、たまたまだと最初は思っていた。

それと美しい容姿や姿形も、次第に崩れていて、縦でなく横に太り始めていた。

それを成長期だと信じて疑わないアキントス。

先生は、眉を顰めて怪訝な顔をした。横に太り制服がパツパツなのを成長期だと思いこんでいるアキントスに病気ではないかと密かに噂され始めていた。


だが、好きな物を好きなだけ食べていたのは、前から何も変わっていない。体型が崩れなかったのがおかしかったのだ。カロリーの高いものばかりを好んで食べている。



段々と取り巻きの令嬢たちは、離れて行った。離れられなかったのは、新しい婚約者となったアンテリナのみだ。

すっかり体型がぽっちゃりになって制服を何度目かの新調をした頃には、隣に並ぶのも嫌になっていた。


クリティアから横取りしたアンテリナをよく思っていない連中が、くすくすっと笑うまでになっていた。そう言った連中と彼女はよく喧嘩するようになっていた。


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