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しおりを挟むユズカが一番驚いたのが、自分がユーフォルと恋人同士になれたことではなかった。
いや、驚かなかったわけではない。でも、一番ではなかった。
ユズカを驚かせた断トツは、社長が魔界の王子だと聞かされたことだった。
(王子には驚かないけど、魔界の王子には、物凄く驚いてしまっている自分がいるのよね。魔界と魔界じゃない王子の違いって、そもそも何?)
驚きすぎておかしなことになっていた。思考が大混乱していたが、ユーフォルは恋人同士になれたことに浮かれ過ぎていて、あまり気づいていなかった。とっくにユズカのキャパを超えていることに。
「魔界の王子」
「ふふっ、流石ですね。ユズカ。普通なら、それを知ったら恐れおののく者ばかりなんですが、あなたは面接の時や嘆願した時と変わらない」
(……十分驚いてるんだけどな)
ユーフォルは、嬉しそうにしながら自分のことのように社長、もとい魔界の王子であるジュラルの話をした。
この世界には何百年前になるか。単身でやって来て、理念と信念の下で会社を作って、ここまで大きくしたやり手のようだ。
(何百年も前から、ある会社なんだ)
ユズカは、最早どこに驚いていいのかわからずにユーフォルの説明をおとぎ話のように聞いているのが精一杯だった。
だが、ユーフォルは恋人に社長の話ができてウキウキしていた。他の社員ですら、ユーフォルがしたのをこんな風に平然とは聞いていられない。名前を出しただけでも気絶したり、逃げ出してしまうのだ。
それなのにユズカは、ユーフォルの隣に座ったまま意識を保っているのに内心では流石だと思っていた。だが、ユーフォルもすっかりできたてホヤホヤの恋人の日常茶飯事の勘違いが起こっていることに全く気づいていなかった。
彼女は、平然となんてしていない。何なら、今立ったらまともに歩けそうもない。隣にユーフォルがいるからではない。……それもあるが、魔界の王子うんねんによって、大混乱した頭の中がぐちゃぐちゃになっている影響は着実にユズカの身体にも出始めていたるのだが、ユーフォルは全く気づいていなかった。
ユーフォルだけではない。ユズカ自身も、気づいていなかった。
そのため、この話が終わることはなく、ユーフォルがそのまま続けるのをユズカは大混乱した状態のまま聞き続けるしかなかった。
(なんか、驚きすぎたのか。壮大すぎて、段々と頭が痛くなってきたな。……そんな会社に就職してたんだ。全然、気づかなかったな)
ぼんやりし始めながらも、凄い会社なんだということだけが、ユズカの思考に深く残っていた。
でも、そこに妙な感心を刻み込む前にもっと重大なことがあるはずだが、そこにユズカは行き着く気配は一向になかった。
(それにしても、ユーフォルさんって社長のことが好きなんだろうな。こんなに誰かのことを語るのなんて初めて見た)
そんなことはない。少し前にユズカへのことをぶちまけた時に色々と語っていたが、その辺のことをユズカが聞いていなかっただけのことだ。
なのに盛大に勘違いしたユズカは、尊敬してやまない社長について語っているユーフォルを見て、そんなところも素敵だなと思ったところだけが、ユーフォルはわかってしまい、社長について語っているたさのではなく、素敵だなを拾ったことでユーフォルが顔を真っ赤にさせることになるが、これまた2人の間に勘違いが起こったが、そこにも気づくことはなかった。
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