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(アジュガ視点)

ユーフォルに本気だった。基本、女性には優しいユーフォルのことを勘違いしたと言われたら、それまでだが基本中の基本から、逸脱して特別な女性が現れたと噂を耳にした時から焦ってしまった。

種族を超えて、みんなのユーフォルのように会社の全員とは言わずとも、女性の8割方はそんな風に思っていたはずだ。

その中にアジュガもいた。色々やらかしたあとだと一番勘違いしていたと思われるかも知れないが、アジュガがことを起こしていなければ、ユズカに対して色々しようとしていた女性は多かったはずだ。

それが、ユーフォルの大事に思っている女性に何かしようとするとどうなるかを知らしめることになり、それでユズカに何かしようと思う者は怖気ついたようだ。

それにユズカをよく知り、彼女を気に入っている面々も多くいて、そんな面々から睨まれたら、どこでもやっていけはしない。

アジュガも、やらかしたあとで冷静になって、そのことを思い知った。ただですら、同じ種族に味方はいないのだ。

この会社の中にしか味方はいなかったのに。その少ない味方すら、いなくなるようなことをしたのだ。


(自業自得よね)


そう思って泣きそうになったが、社長に呼ばれて覚悟していたのと違う言葉を聞くことになって、それにどれだけ驚いたことか。


(あんなことしたのに私を会社にいられるように嘆願してくれるなんて)


社長からユズカがしたことを聞いて、それまで我慢していた涙が溢れるのを止められなかった。

嫌われたり、嘲笑われたり、馬鹿にされることはあれど、こんな事をした後で助けようとしてくれる者は今までアジュガの側には1人もいなかったのだ。

それでも、針の筵のような日々になると覚悟していたが、ユズカをよく知る者たちがアジュガを何かとフォローしてくれたため、思っていたよりも酷い状況になることはなかった。


「何で、助けてくれるの?」
「そりゃ、ユズカがわざわざ嘆願したからよ」


オネェの口調が特徴的なお気に入りには甘い男が、そんな事を言った。それにユズカのことをよく知る者たちは、その通りというように頷いていた。


「アジュガも、ユズカと話せばわかるわ。というか、あなた、ちゃんとお礼言ったのよね?」
「っ、それが、全然、彼女に会えなくて」
「はぁ!?」
「まぁまぁ、無理もないわ。ユーフォルが、ユズカを独り占めするのに必死になってるから仕方がないわ」


同じ部署のイベリスがすかさずそう言った。イベリスたちとて、同じ部署なのに営業もあるとは言え、会って気軽にお喋りできていないのだ。

そんなこともあり、ユズカとアジュガが仲良くなる前にアジュガは何かと気にかけてくれる面々によって、嬉し泣きすることが増える日々を送ることになって、有能で優秀なことに拍車がかかっていくことになるとは、誰も思ってはいなかった。


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