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魔王こと社長の元に報告があり、関係者の話を自ら聞いて事情聴取をされることになった。

ユズカは、社長に直談判しに行こうと思っていたが、それをわざわざすることなく、呼ばれるとわかってホッとしていた。


(ちゃんと言いたいこと話さなきゃ)


ユズカは、思っていたことをはっきりと社長たちの前で口にできた。それこそ、自分のことではなくて、アジュガのことをきちんと話そうとしていたこともあり、変な緊張をすることはなかった。

そこで話す内容が、自分のことだけだったら、変な緊張をして支離滅裂なことを話していた気がしてならない。

ユズカは、社長たちの前でアジュガに何かとんでもない勘違いをさせてしまったせいで、犯罪者にさせたのではないかと思っていると言うと社長は、ちらっとユーフォルを見た。


「その点を反省すべきは、お前ではないか?」
「っ、わかっています」
「?」


ユズカは、それに目をパチクリとさせた。社長が何を言いたいのかも、ユーフォルが何をわかっているのかも全くわかっていなかったのは、それを耳にしたユズカだった。


(何で、ユーフォルさんが反省するんだろう? 助けてくれて、迷惑までかけたのは私なのに)


ユズカは、ずっと自分のせいで、こうなっていると思っていた。それを一生懸命に話した。


「つまり、彼女を辞めさせるのは反対ということかな?」
「はい。出来うるなら、ちゃんとお話して誤解をとけたらと思っています」
「誤解?」
「だって、あれでは、まるで……」


(私が、ユーフォルさんに好かれているみたいに聞こえなくもなかった。嫌われてるのは間違いなのに。どこをどう見たら、好かれているなんて思われて、あんなことになるんだか)


ユズカは、言葉にできなくて心の中で、盛大にぼやいてしまっていた。


「っ、誤解です!」
「え?」
「私は、あなたを嫌ってなどいません! むしろ、好きです!」
「っ!?」


ユズカは、言葉にしていなかったはずなのにユーフォルにそんなことを言われて目を見開いて驚いて固まってしまった。


「あなたが、ミイラ男のユーパトを選んだから、引き下がろうとしただけで……」
「選ぶ?? あの、私、ユーパトさんとはお付き合いしてませんけど?」
「え?」
「?」


そこから、誤解していたままだったことが発覚して、ユズカとユーフォルといい雰囲気になったのだが、社長が居たことを2人とも綺麗に忘れていてユズカたちは赤面することになった。


(あれ? 私、さっき言葉にしてたっけ??)


顔を真っ赤にしながら、ふとそこに気づいてしまった。


「っ、」


ユズカは首を傾げつつ、不思議そうにユーフォルを見たら、何やらビクついていたのに益々わけがわからない顔をして上司を見つめた。その瞳には、純粋に不思議でならないという顔をしていて、ユーフォルはそんなユズカとは目を合わせようとはしなかった。


「まぁ、2人が相思相愛だとわかってよかった。悪いけど、ここは私の部屋だから。イチャつくなら、ユーフォルの部屋まで我慢してくれ」
「いえ、どこでもイチャつくなんてしません」
「っ!?」


ユズカが、思わずそう言っていたことにユーフォルはショックを受けた顔をしていたが、それにユズカだけが気づいていなかった。


(会社でイチャつくなんてできるわけがない。絶対に無理)


そんなことを思っていたのが筒抜けとなっていて、ユーフォルがしょげるのを社長は笑おうとしたが、あまりの落ち込みように笑うに笑えず思わず慰めるほどだった。

それから、怒涛の展開となった。社長は食屍鬼の秘書を減俸と講習会への参加することを約束させて、そのまま秘書にしておくことにしたのだ。


「え? の、残っていいんですか?」
「ユズカに感謝するといい。そもそも、彼女、盛大な勘違いをしていたようだけど、お前のこと怖いと思ったことがないそうだ」
「え……?」


アジュガは、社長の言葉に絶句したのは言うまでもない。人間に怖くないと言われたのは、初めてでもあった。

更には、お互い誤解しているだけだからと辞めさせたくないと弁護までしてくれたことを知ってアジュガは号泣した。そんなこと他の種族どころか。同族からもしてもらったことはなかった。

ましてや人間から嫌われたとしても、そんなことをされるとは思ってもみなかったのだ。

ベジタリアンだというので、同族だけでなくて、他の種族にどれだけ馬鹿にされ罵られ誂われながら、ここまできたか。

その上、恋に恋して、仕事もこれで失ったと思っていたのにそうならなかったことにホッとして安堵したのもあり、アジュガは子供のように大泣きした。


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