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しおりを挟むユズカが1人っきりになったところで、秘書課で有能な美人の食屍鬼であるアジュガは気配もなく現れた。
誰もが、アジュガの見た目のことは美人だと言っていた。その通りに美しい女性だとユズカも思った。
でも、見た目と違い、中身は残念だと言う者も多かった。それこそ、食屍鬼なのだから、そんなもんだと言わんばかりの者たちが多かったが、ユズカにはそんなもんの意味合いが全くわからなかった。そこについては、わかろうともしなかった。
そんな彼女が、こんなことを言った。ユズカが全く気づいていない背後から、音もなく物騒なことを言っていたのだ。
「あなたを殺せば、彼は私のモノ」
「え?」
(殺すって、言った……?)
一瞬、何を言われたのかわからず、聞き間違えであってほしかったが、そうはならなかった。もしも、正面からそんなことを言われていたら、悲鳴を上げていただろう。
アジュガは、本性をあらわにしていて、人間のユズカでなくとも、他の社員でも本気になったアジュガに食べられそうになったら、悲鳴を上げずにはいられなかっただろうが、彼女は音もなくユズカの背後から現れたことで、そうはならなかった。本性をユズカがその目にする前にアジュガは本性を引っ込めることになったのだ。
ユズカにとって気配なく現れたように思えても、勘の良い者には隠しきれていない気配がアジュガにはあったようだ。
それにユズカは助けられることになったのだが、それもユズカ本人はわかっていなかった。
ユズカは、アジュガに言われたとに混乱していたところにユーフォルが、物凄いスピードで2人の間に間に入って来たかと思えば、慣れたようにあっという間に食屍鬼の女性を拘束してみせたのだ。
(ふ、2人とも、速っ!?)
もちろん、アジュガもすぐに捕まるなんてこともなく、早送りで見ているような動きで2人は動いていた。
ユズカは、それに驚いてしまっていた。殺すうんねんの言葉より、その速さに驚いているとは誰も思うまい。
普通なら、殺すと言われたら怖がるところだ。しかも相手は食屍鬼だ。人間のユズカとは相性が最悪なのは間違いない。
「ユズカ。大丈夫ですか?!」
「は、はい。私は、大丈夫です」
久しぶりに声をかけられ、しっかりと目が合って、名前を呼ばれたことにユズカは一番驚きつつ、返事をした。
ユーフォルは、ユズカの返事を聞いて、その顔を見て、その目をまっすぐに見て、心からホッとした表情をしていた。
アジュガを羽交い締めにしながら、安心した顔をされても、ユズカはユーフォルのように安心することはできなかった。
(えっと、これは、どういう状況なんだろう……?)
いや、大丈夫と返事したが、大丈夫ではなかったかも知れない。ユズカは、混乱したままだった。
ユーフォルも、他に騒ぎを聞きつけてやって来た面々も、そもそもユズカがただの人間なことをすっかり忘れていて、ユズカが混乱しているのも殺されかけたからだと思って、肝心の何に混乱しているかを誰一人としてわかってはいなかった。
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