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しおりを挟む魔女の格好をした営業部のお局的なモルセラは、気難しいところがあるが、ユズカにとっては優しくて頼もしい第二のおばあちゃん的存在が、彼女だ。
ユズカは、自分のおばあちゃんよりも、若々しいのにおばあちゃんみたいだと思っているのを失礼だと思っているのだが、それが筒抜けになっているのを知らなくて、更におばあちゃんっ子のユズカのことを物凄く気に入ってくれているようで、そのおかげで孫のようにモルセラに可愛がられていた。それは、とても有り難いことだった。
モルセラの実年齢が、ユズカのおばあちゃんよりかなり年上だと知ったのは、だいぶ後のことだ。
つまるところ、ユズカの直感は当たっていたのだ。なぜ、そう思うのかが、この時も、わかってからも首を傾げたくなっても、ユズカの勘は中々だったが、その凄さに本人は全く気づいていなかった。
ミイラ男のユーパトは、痛々しい包帯男だ。痛々しいとつくのもドジっ子らしく、いつも怪我をして血が滲んだようにしているのだ。それがとても生々しかった。それを最初に見た時、ユズカはそういうメイクなのかと勘違いした。だが、本当に怪我しているとわかると逆に心配になってしまう。
ユズカですら、そんな怪我を毎回したりしない。
「あの、よければ手当てしましょうか?」
「え?」
救急箱を持ったユパトにユズカが声をかけると驚いたのか、固まってしまった。
(やっぱり、役になりきってるのに包帯外したくないのかな?)
これまたユズカは、とんでもない勘違いをしていた。その間も、ユーパトは挙動不審にしていた。
「あ、いや、ですが……」
「ちゃんと消毒しないと駄目ですよ」
(化膿したら、大変なことになるよね。包帯してるのに化膿して、病院に行くことになる方が絶対に恥ずかしいことだよね)
そんなことをユズカは思っていて、恥ずかしい思いなんてさせられないと思っていた。
「じゃ、じゃあ、頼めますか?」
「はい!」
この時のユズカは、仮装しているミイラ男の包帯を替えるというのは、身内がやることであり、家族のやることだとは知らなかった。
ただのハロウィンを全力で楽しんでいるだけの人たちの裏設定のような、掟があるなんて知りもしなかったのだ。
つまりは、この世界では当たり前の知識として、種族別に注意事項があったのだが、それをユズカは何一つ知らないのだ。
そうとも知らず、ユズカが彼に気があるのだと思われたわけだ。そんな裏設定がミイラ男にあると普通なら思うまい。でも、その世界での常識のようなもので、人間のユズカが知らないのも仕方がないとは思わなかったのだ。
何せ、ユズカは元はただの人間なのだ。この世界で10年以上暮らしていても、この世界が自分が事故に合う前と変わらない世界だと思っていることもあり、その辺の詳しい事情をおばあちゃん以外は知らない。
いや、いい加減、ユズカが察して気づいていると思っているのかも知れないが、ユズカはそんな女の子ではなかった。
見事なまでの勘違いをし続けていて、この会社に勤め始めてもなお、人間である自分が物凄く珍しい存在なことに全く気づいていなかった。鈍感なんて言葉では足りないほど、とんでもなく鈍いことを周りのほとんどが知らなかった。
そのせいで、色んな勘違いが起こってしまい、気があるのだと思われてしまったのだ。
ものの見事に勘違いされたのは、1人ではなかった。ミイラ男の彼とドラキュラの上司のユーフォルに勘違いされてしまったのだ。
だが、ユズカは純粋にミイラ男であるユーパトを心から心配していたのは確かなことだった。怪我をしているのを知って、心配するのは当たり前だとユズカは思っていたが、その手当てを家族以外の異性がするのはミイラ男でなくとも、気があるサインの一つと思われても無理はないことにユズカは気づいていなかったのは、大学まで大した友達がいなかったことも大きかった。
友達の家に遊びに行ったり、出かけたりしていれば、この世界が思っているよりもハロウィン尽くしなことに日本離れしているとわかったはずだが、生憎大した友達もできずにいたこともあり、家庭環境を知ることもなかったことで、未だにハロウィンの仮装を全力でしている人たちとそのブームがおさまらないと思っているだけだった。
大学でやっとできたのも同性で、親しい男友達がいなかったのも大きく関係していた。
それにユズカの周りで、しょっちゅう怪我する異性が、そもそもいなかったこともあり、おばあちゃんもあの調子なため、一般常識だと言われてもユズカにわからないことの方が多かった。
それが、とんでもない誤解が生まれるきっかけになるとは、この時のユズカは思ってもいなかった。
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