上 下
13 / 46

13

しおりを挟む

ユズカは、シレネと卒業旅行に出掛けることになった。それこそ、人生初の初めてできた親友と旅行に行けることに嬉しいという気持ちが勝ったが、旅行というフレーズに家族との旅行のことが頭を過ぎなかったわけではない。


(せっかくだもの。行かないなんてしたくないし、何より最後の旅行があのままなのも何とかしなきゃ駄目よね)


おばあちゃんとは、それなりに出かけたが1泊の旅行はしたことがなかった。全て日帰りの範囲で、旅行というより、お出かけでしかなかった。

ユズカが社員寮に入ることになり、アパートを探すこともしなくてよくなったのも大きかった。何より家賃の安さから、待遇のよさなど至れりつくせりで、シレネと卒業旅行に行っても貯金に余裕があることがわかり、思い出作りをすることにしたのだ。


「でも、こんな急に旅行するって言っても、泊まるとこ探すのも大変そうだよね」
「それなら、何とかなると思うわ」
「?」


急に決めたにも関わらず、旅行先はシレネの彼氏さんの顔がきくところで、いつの間にか婚約者となっていたシレネは顔パスとなっていたようだ。


(いつの間に婚約してたんだろ?)


ユズカは、そこが気になったが卒業したら即結婚するのが当たり前のようにしていたのを見聞きしていて、家の事情があるようだとわかって、深く聞くことはなかった。

周りも、それが当たり前のようにしていたこともあり、ユズカのような庶民にはわからないことなのだろうと思う程度で、詳しく聞くことはしなかった。


(確かにシレネの彼氏さんは、いいとこのお坊ちゃんみたいだものね。それにシレネもバイトなんてしなくとも生活できるくらいだし、住むところが違うんだろうな。……そんな人が私の親友になってくれるなんて、嬉しいな。迷惑かけないようにしないと)


シレネの親友ということで、ユズカの待遇も、こちらが恐縮するほど、物凄くよかった。びっくりしたが、シレネが婚約していたことが、自分のことのように段々と嬉しさが勝ってしまったのも大きかった。


「あれ? 私、ユズカに婚約したの話してなかったっけ?」
「あー、私が聞き逃したんだと思うよ」
「いや、待って。言うタイミングを考えて……。あ、ユズカが内定もらったのに喜び過ぎて話した気でいたかも!?」
「……」


(話そうとはしてくれてたんだ。……良かった)


どうやら、シレネは忘れていただけのようだ。しこたまユズカに謝ってきて、どちらも嬉しいことが自分のことより、親友のことだとわかって嬉しくなって盛り上がってしまっていた。

そのせいで、その晩はかつてないほど、2人で酔っ払ってしまって、そんな姿シレネも婚約者には見せられなかったはずだ。

次の日、ちょっと大変だったが、あんなに楽しい旅行は初めてだったのは確かだ。

酔っ払って、ガールズトークに花が咲いたのだが、お酒の勢いで何だかとんでもない話をした気がするのだが、ユズカはその内容を全く覚えていなかったことは、果たしていいことなのかがわからなかった。


(まぁ、何を話したかは思い出せないけど、凄く楽しかったのは覚えてるからいいわよね)


そんなことを思って納得していた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

少女剣聖伝~伯爵家の跡取り令嬢ですが、結婚は武者修行のあとで考えます!~

白武士道
ファンタジー
「そなたは伯爵家の跡取りだ。元服した後は速やかに婿を取り、男児を産む義務がある」 地方貴族であり古流剣術の宗家でもあるベルイマン伯爵家の一人娘、ローザリッタ。 結婚を期待される年齢となったが、彼女は大人になったらどうしてもやりたいことがあった。 それは剣の道を極めるための『武者修行』。 安全・快適な屋敷を飛び出し、命を懸けた実戦に身を投じることだった。 猛反対を受けても自分を曲げない娘に痺れを切らした父は、ローザリッタに勝負を持ち掛ける。 できれば旅立ち。できなければ結婚。単純明快な二者択一。 果たして、ローザリッタは旅立つことができるのか? そして、そこまでローザを武者修行に駆り立てるものは何なのか? 令嬢と銘打つものの、婚約破棄も悪役令嬢もざまぁもありません。ごりごりの剣技だけで無双するお嬢様の冒険活劇、ここに開幕! ※カクヨム様(原作版)、小説家になろう様にも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

姉の厄介さは叔母譲りでしたが、嘘のようにあっさりと私の人生からいなくなりました

珠宮さくら
恋愛
イヴォンヌ・ロカンクールは、自分宛てに届いたものを勝手に開けてしまう姉に悩まされていた。 それも、イヴォンヌの婚約者からの贈り物で、それを阻止しようとする使用人たちが悪戦苦闘しているのを心配して、諦めるしかなくなっていた。 それが日常となってしまい、イヴォンヌの心が疲弊していく一方となっていたところで、そこから目まぐるしく変化していくとは思いもしなかった。

落ちこぼれ盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる ~エルフ♀と同居しました。安定収入も得たのでスローライフを満喫します~

テツみン
ファンタジー
アスタリア大陸では地球から一万人以上の若者が召喚され、召喚人(しょうかんびと)と呼ばれている。 彼らは冒険者や生産者となり、魔族や魔物と戦っていたのだ。 日本からの召喚人で、生産系志望だった虹川ヒロトは女神に勧められるがまま盾職人のスキルを授かった。 しかし、盾を売っても原価割れで、生活はどんどん苦しくなる。 そのうえ、同じ召喚人からも「出遅れ組」、「底辺職人」、「貧乏人」とバカにされる日々。 そんなとき、行き倒れになっていたエルフの女の子、アリシアを助け、自分の工房に泊めてあげる。 彼女は魔法研究所をクビにされ、住み場所もおカネもなかったのだ。 そして、彼女との会話からヒロトはあるアイデアを思いつくと―― これは、落ちこぼれ召喚人のふたりが協力し合い、異世界の成功者となっていく――そんな物語である。

母は、優秀な息子に家の中では自分だけを頼ってほしかったのかもしれませんが、世話ができない時のことを全く想像していなかった気がします

珠宮さくら
恋愛
オデット・エティエンヌは、色んな人たちから兄を羨ましがられ、そんな兄に国で一番の美人の婚約者ができて、更に凄い注目を浴びる2人にドン引きしていた。 だが、もっとドン引きしたのは、実の兄のことだった。外ではとても優秀な子息で将来を有望視されているイケメンだが、家の中では母が何から何までしていて、ダメ男になっていたのだ。 オデットは、母が食あたりをした時に代わりをすることになって、その酷さを知ることになったが、信じられないくらいダメさだった。 そんなところを直す気さえあればよかったのだが……。

君は、妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは、婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でも、ある時、マリアは、妾の子であると、知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして、次の日には、迎えの馬車がやって来た。

幼なじみのお姉さんは、妹の浮気が許せないようですが、勘違いだとわかると私のせいになるのは、どうなのでしょう

珠宮さくら
恋愛
プリシャ・カウルは、幼なじみとは昔から仲良くしていたが、そのお姉さんとはあまり交流がなかった。 それが、親切心からプリシャの婚約者が幼なじみと浮気しているのを目撃したとプリシャのところにわざわざ言いに来てくれたのだが、何やら勘違いしていたようで……。

処理中です...