19 / 42
19
しおりを挟む美穂は、高校生活を満喫しようとしていたが、友達ができる前にあの由美の妹と言うので、先生方から色眼鏡で見られていた。
(早速、姉さん絡みか。一体、どんな高校生活送ってたんだか。ここまでだとは思わなかった。私や母さんだけでなくて、他所でも迷惑かけまくっていたってことよね。……というか、迷惑かけないで過ごせない人みたいね。どうしたら、ここまでになるの?)
在校生の先輩たちにも色々と言われたが、美穂が全く似ていないとわかってもらえるまで、あっという間のことだった。
「全然、似てないな」
「よく言われます」
(というか。あんな性格の姉妹だったら、母さんの胃に穴があきまくってるんじゃないかな。……あれ? これは、見た目のこと言ってる??)
他にも、先輩に似ていないと同じように言われて、拍子抜けな顔をされたりもした。
(やっぱり、見た目のこと……? 性格のことよね?? 見た目だとしたら、どう見られてるのかな? ちょっと、いや、かなりそれは気になるかも)
美穂は、その辺のことがわからなかったが、とりあえず性格のことと捉えることにした。姉妹なのだ。姿形で、とやかく言われても困る。そんなことで、呼び出されても美穂は何もしてはいない。
(あの性格なんだもの。人の彼氏をとったとかなら、自慢してるはず。彼氏ができても、私に自慢していたはず)
そこまで、頭を過ったが性格のことのはずと内心、違っていたらどうしようかと思っても性格の話をした。
「あの性格は、父に似たみたいです」
「お父さん? それじゃ、大変でしょうね」
「まぁ、父は私が小さい頃に亡くなってるんで、一緒に住んでる姉だけで済んでますけど。2人揃ってたら、大変だったでしょうね」
「それ、コメントしづらいわ」
「そうですね。すみません。聞かなかったことにしてください。その、姉のことで先生たちからも色々と言われたので」
「そうなの。ごめんね。苦労したんでしょうね。何かあったら、遠慮なく頼って。何もなくても、話しかけてくれていいわよ」
「ありがとうございます」
ついつい、美穂は余計なことを言ってしまったが、先輩たちには可愛がられることになったのは言うまでもない。やはり見た目もあったのかも知れないが、性格の方が全く違うことでホッとされたようだ。
(とりあえず、クラスメイトに友達がほしいかな。先生たちや先輩たちに呼ばれてるってだけで色眼鏡で見られてるみたいだし。このまま、ボッチになるのは避けたいところなんだけど)
美穂は、そんなことを内心で思いつつ、意外に姉の影響力が大きかったことに頭を抱えたくなった。妹として、付き合わされてきて嫌というほど姉の酷さは身にしみている分、それを高校でもしていただけなのだろうが、ここまでとは思っていなかった美穂は、姉がそんなことをし続けて何が楽しいのかと思って首を傾げたくなっていた。
美穂に色々していた以上に学校でやらかしていたとしたら、呼び出しが続くのも無理はないかも知れない。
(まぁ、いくら考えても理解なんてできないから考えるだけ無駄かな。やっと家から出てくれたんだから、姉さんのことなんて考えないでおこう。とりあえずは、高校に慣れてお弁当のレパートリー増やして、余裕が出たらバイトでもしよう)
そんなことがあっても、美穂は図書館へ通うことは続けていた。そこに通う理由は勉強のためではない。
「なぁ~」
「姉さんもいなくなったから、我が家に来ないかって誘いたいけど、長期休暇には戻って来るだろうし、何を言われるか想像しただけでも酷いのはわかってるから。君を悪く言われるのは許せないし、ごめんね」
「なぁぅ」
返事しながら、美穂の靴に前足を置いた。まるで、そんなの気にするなと言っているようだ。美穂は、その野良猫にだけは本音で話せていた。
美穂が本音で家族に話したことは一度もない。姉はあの調子だし、母にも本音では話していない。無意識に自慢の娘だと言ってくれる通りになろうとしているようだ。本人としては、無理しているつもりはないのだが、高校生になったとしてもまだ子供だ。これまで、ずっとしてきたこともあって、美穂は年齢を重ねるごとに母のために行動することが当たり前になりすぎていた。
小中学の時も、そうだった。友達と遊びに行くよりも家のことをやって母に喜んでほしかった。褒めてもらいたかった。それをしてもらえるなら、友達と遊べなくとも、構わないほどだった。
だから、親しい友達ができなかった。誘っても、遊べないと断る美穂と仲良くしてくれる子なんているわけがない。
そんな美穂が、野良猫に会いたくなってしまうのは、本音を気軽に話せるからに他ならなかったが、そんなことをしている自覚も美穂にはなかった。
「まぁ、君としては野良猫のままがいいって言うかもだけど。私としては、何かとこうして世話になってるからお返ししたいんだよね。君が癒してくれてなかったら、絶対に爆発してた。そんなことしてたら、母さんを困らせてた。役に立ちたいのに逆に困らせるようなことしてたらと思うと……耐えられない」
美穂は、その野良猫にそんなことを話していた。いつも、すぐに何かと返事をしてくれていたが、その時はじっと美穂の目を見つめるばかりだった。
(こんなこと話しても、やっぱり伝わってないのかな。この野良さんには、何かある気がするけど。でも、立派なアニマルセラピーだわ。セラピー料をいつか払いたいな)
それが一体何を意味しているのかが美穂にはわからなかった。ただ、まっすぐに見上げる野良さんの目は何か言いたげに見えたが、その意味がわかるのはだいぶ経ってからだった。
21
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
桜は君の無邪気な笑顔を思い出させるけれど、君は今も僕を覚えていますか?
星村桃摩
恋愛
一流貴族の娘、桜姫は親が決めた政略結婚のために命を狙われる羽目になってしまった!しょうがないのである京都の寺院に雲隠れすることにした。しかしそこではイケメン僧侶との初恋が待っていた。身分違いの恋をした二人が交わした、たったひとつの約束。遥かなる時を越えて、二人の運命が再び廻りだす。
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる