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しおりを挟む一番手前の蔵が、ほぼ元通りとなったのは、星蘭が成人する少し前のことだった。
それこそ、そんなことがあって、星蘭が祖父の近くに住むこととなって、一番喜んだのは蔵の住人たちだった。
「お嬢! お帰り!」
「ただいま」
蔵の中から、最近、敷地内なら出歩けるまで修行をつんだ付喪神が、星蘭を見つけてかけて来た。
小学生の低学年くらいの男の子くらいの彼は、人間にすると数百歳になるらしい。だが、本体ともいえる器が欠けてしまって、そこからなり損なってしまった悲しみのあまり、禍々しいものへと変貌しかけたのを時任家の何代か前の当主に説得されて、蔵の中で他のなり損ないたちと頑張っていたのだ。
それなのに突然、訳もわからないまま、売り払われて、見知らぬところで仲間と引き離されながらも、それでも自分よりも弱い仲間を探して、時任家に戻ろうと説得していたのだ。
それにより戻って来れてから、人型となって敷地内を歩いてもへっちゃらとなったとかで、星蘭を見つけるとこうして話しかけて来るようになったのだ。
(何だか、弟ができたみたいなのよね。彼の方が、年上なのに。失礼よね)
星蘭が蔵の中に入っていいとなったのも、あの出来事があってからだ。
祖父は、滅多なことでは蔵の中には入らない。いや、祖父ですら、数年に一度くらいしか入れないらしく、星蘭が毎日入ってもケロッとしているのを見て、かなり驚いていた。
暗くて、窓もないけど、暗所恐怖症でもないし、閉所恐怖症でもない。星蘭にとっては、怖いことなど何一つないのだが、普通の人間にはかなり精神的にまいる空間らしい。
それをもろともせずに星蘭は、体調を崩すこともなく、出入りするさまに祖父は裏の生業を任せられるのは、星蘭しかいないと思ったようだ。
星蘭は、まだまだ未熟だと思っていたが、裏の生業を継ぐに相応しい者として、満場一致で認められ、成人するのと同時にいわく付きの蔵の管理をすることとなったのは、成人式を終えた時だった。
(大丈夫かな)
「お嬢が、心配することないよ」
「そうですよ。我々の声をきちんと聞いてくださる。見てくださるお嬢なら、心配無用です」
星蘭に対して、あやかしや付喪神たちが言うのを聞いていて、その言葉にみんなが頷くのを見て微笑んでいた。
「そうよね。みんなが居るもの。大丈夫よね」
星蘭は自分が一人ではないのだからと納得したが、あやかしと付喪神たちは、そんな星蘭だからこそという所があるのが全く伝わっていないことにやれやれといった顔や苦笑する者もいたが、それに星蘭が気づくことはなかった。
それこそ、星蘭はずっと親戚だと思っていた面々が、実は違っていたことを最近、ようやく知ったのだ。
(まさか、あやかしや付喪神たちでも、全部が見えているわけでもなく、聞こえているわけでもないなんて思わないわよね)
祖父では、裏の生業の管理人としては、不十分だったようだ。
星蘭が、管理人となった途端、祖父の屋敷内は益々、賑やかなものとなり、一生をかけて星蘭はあやかしや付喪神たちが幸せに暮らせるように奮闘し続けることとなった。
祖父の表の生業を父が継ぐこととなっても、変わることはなかった。
従兄たちは、星蘭が裏の生業の管理人となってから、益々やる気になったらしく、忙しくしていて着実に次の世代を担うべく成長していた。
(裏の生業を引き継げる者を見つけるのも、私の役目よね)
そうは思っても、星蘭は焦ることはなかった。
せめて、あの蔵の外から出ることができて、楽しく遊び、やりたいことをやって楽しい毎日を送ってほしい。恨みつらみを昇華して、満喫してほしい。
あやかしや付喪神たちが幸せで、穏やかな日々を送れるようにそれこそが、星蘭の幸せに繋がるかのように荒ぶる魂を鎮めることとなったのだ。
悲しいと嘆く声は鳴りを潜め、星蘭は何代も入ることすら出来なかった蔵に入って、掃除することが出来るようになるまで、数年だった。
そんな星蘭は、あやかしや付喪神たちに好かれまくり、従兄が父の跡を継いでもなお、若々しい姿のままだった。
こうして、あやかしや付喪神たちのおかげで、笑顔溢れる人生を星蘭は謳歌することが出来たのだった。
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