上 下
4 / 10

しおりを挟む

「……」


龍族の佑は、花嫁候補に会えることに珍しく浮かれて、数日の間、周りにからかわれるほど、わかりやすくそわそわしていた。

だが、実際に候補に会ってみたら、思っていたのと違っていたのだ。


「これは……」


佑と一緒に来た保護者代わりの男も、陽芽子が見せた龍の玉を見て、何とも言えない顔をしたのは、すぐのことだった。

陽芽子だけでなく、彼女の母親や祖父母が、色々と言っていたが、龍族は何一つ聞いていなかった。

思ったことといえば、時間を無駄にしたと龍族たちが思っているとも知らず、陽芽子は見目麗しい佑に何かとアピールしようと必死になっていた。

そこでチャイムが鳴ったのだ。


「あら、誰かしら」
「待たせておけばいい」
「でも」
「この気配は……」
「鬼の従者のようだ」
「え?」
「ごめんくださいませ」


龍族は、気配に敏感に反応していた。


「おや? 龍族の若様と熙様でしたか」
「お前だけか?」
「我が主の伝言をお伝えにあがりました。日菜子様のご家族様でしょうか?」
「え? えぇ、あの、どちら様ですか?」
「これは、失礼いたしました。鬼族の長のご子息であられる晟様の従者が一人、黒曜と申します」


従者は淡々と日菜子が川で溺れていたのを助けたこととこの度、若君の花嫁に選ばれたと告げたのだ。


「は?」
「鬼族の花嫁……?」
「それは、めでたい!」


熙は、すぐさま祝辞をのべていた。佑は、晟の方が花嫁を見つけたことにムッとしていたが、熙がすぐに戻ってめでたいことを一族に伝えて、祝いの品を準備しなくてはと言い出したことにのっかることにした。


「日菜子様は、若君様とご一緒ですので、心配なさいませんように」


そう言うと従者は、用は済んだと消えた。

龍族も、この機を逃せられないと挨拶もそこそこに帰って行くのを陽芽子たち家族は、呆然と見送ることしかできなかった。


「……は? え? どうなってるの??」


陽芽子は、龍の花嫁に自分がなるのだと学校で触れ回っていたが、花嫁になったのが姉で、それも鬼族に見初められたことに頭が混乱していた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー

三坂しほ
キャラ文芸
両親を亡くし、たった一人の兄と二人暮らしをしている椎名巫寿(15)は、高校受験の日、兄・祝寿が何者かに襲われて意識不明の重体になったことを知らされる。 病院へ駆け付けた帰り道、巫寿も背後から迫り来る何かに気がつく。 二人を狙ったのは、妖と呼ばれる異形であった。 「私の娘に、近付くな。」 妖に襲われた巫寿を助けたのは、後見人を名乗る男。 「もし巫寿が本当に、自分の身に何が起きたのか知りたいと思うのなら、神役修詞高等学校へ行くべきだ。巫寿の兄さんや父さん母さんが学んだ場所だ」 神役修詞高等学校、そこは神役────神社に仕える巫女神主を育てる学校だった。 「ここはね、ちょっと不思議な力がある子供たちを、神主と巫女に育てるちょっと不思議な学校だよ。あはは、面白いよね〜」 そこで出会う新しい仲間たち。 そして巫寿は自分の運命について知ることとなる────。 学園ファンタジーいざ開幕。 ▼参考文献 菅田正昭『面白いほどよくわかる 神道のすべて』日本文芸社 大宮司郎『古神道行法秘伝』ビイングネットプレス 櫻井治男『神社入門』幻冬舎 仙岳坊那沙『呪い完全マニュアル』国書刊行会 豊嶋泰國『憑物呪法全書』原書房 豊嶋泰國『日本呪術全書』原書房 西牟田崇生『平成新編 祝詞事典 (増補改訂版)』戎光祥出版

皇太子から愛されない名ばかりの婚約者と蔑まれる公爵令嬢、いい加減面倒臭くなって皇太子から意図的に距離をとったらあっちから迫ってきた。なんで?

下菊みこと
恋愛
つれない婚約者と距離を置いたら、今度は縋られたお話。 主人公は、婚約者との関係に長年悩んでいた。そしてようやく諦めがついて距離を置く。彼女と婚約者のこれからはどうなっていくのだろうか。 小説家になろう様でも投稿しています。

伯爵令嬢は、愛する二人を引き裂く女は悪女だと叫ぶ

基本二度寝
恋愛
「フリージア様、あなたの婚約者のロマンセ様と侯爵令嬢ベルガモ様は愛し合っているのです。 わかりませんか? 貴女は二人を引き裂く悪女なのです!」 伯爵家の令嬢カリーナは、報われぬ恋に嘆く二人をどうにか添い遂げさせてやりたい気持ちで、公爵令嬢フリージアに訴えた。 彼らは互いに家のために結ばれた婚約者を持つ。 だが、気持ちは、心だけは、あなただけだと、周囲の目のある場所で互いの境遇を嘆いていた二人だった。 フリージアは、首を傾げてみせた。 「私にどうしろと」 「愛し合っている二人の為に、身を引いてください」 カリーナの言葉に、フリージアは黙り込み、やがて答えた。 「貴女はそれで構わないの?」 「ええ、結婚は愛し合うもの同士がすべきなのです!」 カリーナにも婚約者は居る。 想い合っている相手が。 だからこそ、悲恋に嘆く彼らに同情したのだった。

アムネジアの刻印~Barter.14~

志賀雅基
キャラ文芸
◆共に堕ちるな僕は咎人//私は私の道を往く/欠けても照らす月のお前と◆ キャリア機捜隊長×年下刑事バディシリーズPart14[全41話] 連続強盗殺人事件が発生。一家全員子供まで殺害する残虐な犯行と、意外なまでに大きな被害額で捜査は迷走。一方で市内の名門大学にテロリストが偽名で留学し資金獲得活動をしているとの情報が入った。動向を探る特別任務が機捜隊長・霧島とバディの京哉に下るが、潜入中に霧島が単独となった際に銃撃戦となり4階から転落して……。 ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】 【Nolaノベル・小説家になろう・ノベルアップ+・ステキブンゲイにR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】

処理中です...