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しおりを挟むエウリュディケは、こみ上げてくる怒りに我慢ならず、ムッとした表情をしていた。それこそ、他の人たちがいるところでは決してしない表情をしていた。明らかに子供っぽいことをエウリュディケは、幼なじみしかいないところでは続けていた。
もっとも、そんな顔をしなくてもバシレイオスならエウリュディケの一喜一憂なんて手に取るようにわかりそうなものだが。
「どんなに遊びたくとも、あんな言い方させておくべきじゃないわ!」
「……そうだね。でも、僕は、ずっとここにいるから、同じことを言われ続けても、今は逃げ場がないんだよ」
「……」
つまり、エウリュディケがいなくなったあとでも言い続けられることになっているのか。なり得るから、穏便に済ませたいということのようだ。
それを聞いてエウリュディケは、何とも言えない顔をしてしまった。
(私が何か言って、バシレイオスが当たり散らされて具合を悪くしたら、大変よね。でも、おじ様たちは、バシレイオスの味方をしているのよね?)
だが、エウリュディケが思っているような味方がこの家にはいなかったようだ。
数日して、こんなことを言われたのだ。
「エウリュディケちゃん、たまにはこの子と遊んであげて」
「え?」
「遊ぼう!」
「バシレイオスの相手ばかりでは、つまらないでしょ?」
「……」
彼の両親はバシレイオスの味方より、弟の方を気にかけていたようだ。
前までは、バシレイオスが部屋から出られないからと話し相手になってほしいと言っていたのに。母親の方が末っ子の方を優先し始めることを言い始めたのだ。
それを段々と知ることになり、益々エウリュディケは見舞いに通うようになった。母親や弟の方に何か言われても、頑なにエウリュディケ……。
「バシレイオスのお見舞いに来ているので、彼といます」
「そんなのいつもしてるじゃん!」
「えぇ、いつもお見舞いに来てるんです。遊び相手がほしいなら、お友達を呼んだらいいのでは?」
「っ、」
あんに弟の方とは友達でも何でもないとエウリュディケは言ってのけたのだ。それに腹が立ったようで、彼はあろうことか兄に向かって花瓶を投げつけたのだ。
それを見ていた母親は動けず、エウリュディケが咄嗟にバシレイオスを庇っていた。
「っ!?」
ガシャン!
花瓶がエウリュディケにあたり、それが床に落ちて派手に割れていた。
「エウリュディケ!!」
「バシレイオス。怪我は?」
「僕より、エウリュディケだ」
「私は平気。あなたが怪我してなくてよかった」
「っ、」
エウリュディケのその言葉に険しい顔をして腹の底から怒鳴り声をあげたのは、バシレイオスだった。弟は、怒鳴りつけられ、謝れと言われたことに顔を真っ赤にして泣き出したが、それに母親はそこまで怒ることじゃないように庇ったことで、更にバシレイオスが怒り狂ったのだ。
その姿を見てエウリュディケは止めるでもなく、こう思っていた。
(私のために怒ってくれてるんだ。……なんか、ちょっと嬉しいかも。自分のことでも怒ってもいいのに)
バシレイオスが怒り狂ったのを見て恐ろしくなったようで、弟と母親が部屋から出て行ってしまった。
「全く、弟と母が、ごめん。……って、何を笑ってるの?」
「ううん。嬉しくて」
「……もしかして、頭にぶつかった?」
バシレイオスからは頭の心配をされてしまったが、そんなことがあって以降は、エウリュディケが見舞いの最中は彼の弟が乱入して来ることはなかった。
母親の方も、エウリュディケの怪我の心配や謝罪よりも末っ子を庇ったせいで、夫から色々言われたようで母親と弟の方から改めてエウリュディケは謝罪されたが、弟の方は渋々仕方なく謝っている素振りを隠すことのない謝罪を聞くことになってエウリュディケはため息をつきたくなったが、大事にすることはなかった。
そうすればバシレイオスのところにお見舞いに行けなくなってしまうからに他ならない。
それに心から謝罪する気がない人たちにとやかく言う方が疲れるだけだと思ったのも大きかった。
(私にできることが、こんなことしか思いつかないなんて、情けないな)
エウリュディケが幼なじみのところから足を遠ざけるなんてことは決してしなかった。
ただ、バシレイオスに元気になってほしいのと彼を守りたかっただけだったが、それすら上手くいかなくなるとは思いもしなかった。
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